栗山英樹が大谷翔平にした「2回の説教」。二刀流ができると「信じ切った」理由
2回だけ説教をした理由
2回だけ説教したことがある。2年目に投手としての成績は良好だったが、打撃が振るわなかった。そこで「何とかしろ」と打ち方についてアドバイスした。 「でも、基本的に人の話は聞くタイプではない(笑)。彼の持論は『人はみんな違うから人に言われたことをやるとうまくいかないことが多い』というもの。だからといって勉強しないわけじゃない。そこが素晴らしい。だから僕と翔平の会話って、めちゃめちゃ言葉が少なかった。僕が何を求めているのかをわかっていたので言葉を尽くす必要がなかったんですね」 あくまで自分で追及していく。ただ、そのほうが本物になりやすいのも確かだろう。もうひとつの説教は、ある年のオフに筋肉をつけすぎたときだ。 「筋肉を大きくしすぎると体の動きが制限される可能性があるんです。しなやかな腕の振りがなくなる可能性の怖さがあったので『それ、計算してやったのか? 』みたいなことを言いました。でも、全然計算してたみたいで(笑)」 言葉を尽くさない濃密な関係性。構築できたのも、栗山さんの「信じ切る力」があったからこそだろう。 しかし多くのスポーツ指導の現場では、今もなお監督やコーチが相対評価で動いてしまうことも少なくない。そこから変わるにはどうしたらいいのだろう。栗山さんは「怒ることも必要だと思うし、無理やりやらせる指導をすべて否定するつもりはないけれど」と前提したうえでこのように語った。 「その選手のためになるのかならないか、それ一点なんです。その基準値でマルかバツかしかない。その選手のためになるかというのは、その選手の人生にプラスになるかならないかですよね。普通は自分で考えて自分で行動できなければ応用力がつかないって誰でもわかるはずなんだけれど、いま無理やりやらせた方が結果がすぐ出ることが多いじゃないですか、スポーツって。 でも、“どこに起点を置くか”ということが広がっていけば、変わっていける可能性があると思います。過去の歴史を見ても、どうしても苦しくなる時に短期的にものを考えて失敗していることがある。だから僕はいつも長期で長期で長期でものを考えようと、いつも自分に言い聞かせているんです。彼らの人生に対してどうアプローチするかを、僕は常に考えています」 大谷選手は「この選手のためになるか」を栗山さんが本気で考え、信じた選手たちのひとりだ。そしてその結果は、いま私たちの多くが目にしている。 ---------- 『信じ切る力 生き方で運をコントロールする50の心がけ』 WBC世界一の根源となったのは何だったのか。信じ切るということ、ダメな自分を信じる、相手を信じる、神様を信じる――50のこころがけを具体的に綴った一冊。 ----------
島沢 優子(ジャーナリスト)