【ネタバレ】『デデデデ』に込めた「原作へのリスペクト」と「アニメ独自の魅力」
浅野いにおの人気コミック『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション(以下:デデデデ)』が2部作としてアニメ映画化。現在『前章』が大好評公開中で、『後章』は2024年5月24日公開となる。アニメージュプラスでは本作のアニメーションディレクター・黒川智之さんにインタビュー(全2回)。後編である今回は『前章』制作の裏話についてネタバレを辞さずに訊いている。最後まで楽しんでもらえると幸いだ。 【関連画像】『デデデデ』の前後編の名シーンやKVを見る!(21枚) ※本文にはネタバレ要素が多く含まれます。『前章』ご鑑賞前の方はご留意ください。 ――コミックス12巻に及ぶ『デデデデ』の物語を、2本の映画にまとめることにも苦労があったかと思います。 黒川 当然のことながら全エピソードを入れることはできません。原作はマンガなので、背景やページの端にまでびっしりと情報が詰め込まれていても読者が立ち止まりひとつずつ読み込むこともできますが、映像にするとそうはいきません。制限される中で使用する情報をいかに取捨選択するかは制作における大きなポイントでした。 そんな中で浅野先生とディスカッションし、まず決めたのが門出と凰蘭を中心に物語を軸にした作品にすること。そして二人に近い亜衣ちゃん、キホちゃん、凛ちゃん、大葉くんを中心に物語を作っていく形で構成を進めていきました。 ――『前章』後半では門出と凰蘭の過去が明かされます。この構成となったのはどういった経緯でしたか? 黒川 エピソードを整理していった結果、原作通りの順番で本作を描くと『前章』は日常描写が集中、『後章』が急展開の連続になってしまう。そこでシリーズ構成を担当した吉田玲子さんから提案いただいたのが、門出と凰蘭の小学生時代を『前章』に持ってくることでした。そうすることで『前章』が門出編、『後章』が凰蘭編といったまとまりになると感じられたので、その方向でまとめることにしました。 ――そんな『前章』の前半で強烈なインパクトを残したのはキホちゃんの死でした。 黒川 「同級生の死」をテーマに作品を作ろうと思ったらそれだけで1本の映画ができる、それぐらい重いテーマなんですよ。ただ、本作ではそれを前半の1時間で描く必要があり、短時間で視聴者をキホちゃんに感情移入させる必要を感じました。なので前半の日常シーンはキホちゃんが関わるエピソード、お好み焼き屋さんでの会話や小比類巻くんとの恋愛事情を丁寧に追いかけるようにしようと考えました。 キャストを選ぶ際にも「短時間でインパクトを残せる人」は大きな選考基準となりましたね。その結果、選ばれたのが種﨑敦美さん。彼女の演技も相まってキホちゃんの死は印象的なエピソードになったと思います。 ――そういう意味では、渡良瀬も前半で強い印象を与える人物となっています。 黒川 彼はバランス感を間違えると嫌味な部分が際立ってしまうのですが、坂泰斗さんがそこに上手く脱力感を加え、嫌味のないキャラクターにしていただきました。出過ぎず引き過ぎず、いい塩梅の演技をしてくださったと思っています。 ――後半では門出と凰蘭の殴り合いも大きな見せ場となりました。 黒川 このシーンはとても重要なので、演じる幾多りらさん、あのさんの同時収録を行いたい理由をお二人にお伝えしてスケジュール調整をしていただき、揃ってのアフレコが実現した場面となりました。 ――あれだけの見せ場ということで、演技のディレクションも難しかったのでは? 黒川 それがほぼディレクションをしていないんですよ。テストの時点から二人の演技は完成されていて、まるで綿密なリハーサルでもしてきたかのような息のあった掛け合いを最初から見せてくれました。二人が共にミュージシャンで、セッションの要領で演じたからあの見事な掛け合いが生まれたのではないかと思います。 なので「二人に関してはテイクを重ねず、今ある演技を大切にしよう」と考え、ちょっとした軌道修正をして3テイクほどのアフレコで完了しました。 ――後半では『イソベやん』も登場しました。 黒川 『イソベやん』に関しては一切登場させない、というアイディアもありましたが、原作ファンの気持ちを考えるとそれはできませんでした。とはいえ、原作に倣って映画冒頭を『イソベやん』にすると原作未読の方がついていけない。 かなり悩まされましたが、吉田玲子さんから「小学生である門出の心の機微を描いた “あの瞬間” であれば『イソベやん』を挟み込める」と提案してもらいました。ワンポイントにはなりましたが、スパイスの効いたシーンにできたと思います。 ――『イソベやん』の描写に関しても、多々アイディアがあったのではないでしょうか。 黒川 そうですね、通常のアニメーションにするというアイディアも勿論ありました。ただ原作での『イソベやん』は、常に “誰かが読んでいるマンガ“ として登場するんですね。映画を原作に近いものにするには、マンガに音と声を乗せる今の形がベストだと感じました。 ――最後に、公開が待ち遠しい『後章』の注目ポイントをお教えください。 黒川 注目してほしいのは、『後章』では原作とは異なるエンディングが描かれることです。映画の物語を踏まえて浅野先生がオリジナルエンディングのネームを描き下ろしてくれまして、『後章』のラストはそのネームを基にして作っています。どんな締めくくりになるかは、劇場で確認していただけると幸いです。
一野 大悟