四国の鉄道網発祥の地「県庁所在地でもないのに不思議」…車両の修繕工場があり、観光列車の改造も
多度津では最近、「鉄道のまち」の歴史を物語ってきた“鉄道遺産”が、姿を消しつつある。 JR四国は、工場の建物や機械が老朽化しているとして、2021年から10年がかりで改修に取り組む。工場内には、讃岐鉄道設立の年に完成し、今も使われている倉庫を始め、明治から昭和初期の建屋など7棟の国登録有形文化財があった。だが、いずれも取り壊される予定だ。 駅の隣にあった蒸気機関車に水を補給する給水塔2棟も、老朽化を理由に昨年以降解体され、姿を消した。
運転士になるのが夢
一方で、人を引きつける鉄道の魅力は脈々と続くようだ。駅に近い県立多度津高校機械科3年の男子生徒(17)は来春、JR四国に入社する。小さな頃から鉄道が大好き。運転士になるのが夢で、同社への就職実績がある同校に進学した。 自宅から自転車で通うこともできたが、列車通学を続けた。多度津駅で行き交う列車や乗務員を見ては、胸が高鳴ったという。「誰にでも優しい乗務員になって、地元に貢献できたら」。鉄道とともに歩んでいく。
「構内食堂」再出発
多度津駅には2020年度末まで、JR四国社員だけでなく一般も利用できる「構内食堂」があり、住民や鉄道ファンに愛された。築90年以上の建物の老朽化で閉店を余儀なくされたが、店主の高田芳紀さん(67)が約1か月後、隣接する香川県善通寺市に移転して営業を再開した。 総本山善通寺の西側にある「善通寺 構内食堂」には、つり革や列車の帽子掛け、車両の写真など鉄道ゆかりの品々があふれている。駅にあった頃から1人で切り盛りし「大将」と呼ばれた高田さんに、鉄道OBやファンらが贈ったものだ。
乗務員が乗り換えの合間に素早く食べられるよう、ずっと変わらない営業スタイルで、メニューは基本的に1種類。火曜はオムライス、金曜は魚定食(いずれも税込み600円)などで、盛りつけられた皿を各自が取る。 今も毎日のように同社OBや現役社員が訪れる。高田さんは「まじめで義理堅い鉄道員に支えられた店。力の限り続けたい」と話す。問い合わせは同店(0877・64・3118)。 文・黒川絵理 写真・枡田直也