アニメ『刀剣乱舞 廻』で忠義者として描かれる【へし切長谷部】…実物の名の由来となった残虐すぎる仕打ちとは?
戦国時代といえば“戦”。武将たちは太刀を振るい、勇猛果敢に戦った。大人気アニメ『刀剣乱舞 廻』のキャラ名となっている刀たちは現在、現存しているものも多い。ここでは、現存し、長い時間を経て輝きを増している刀たちがもつ逸話や歴史をここでは紹介していく。今回は信長の愛刀であった「へり切長谷部」について語る。 ■織田信長が愛用していた恐るべき切れ味の名物業物 苛烈な信長の物語を秘めた名刀 黒田家伝来の宝物を所蔵する福岡市博物館に伝わっている織田信長の愛刀。『黒田御家御重宝故実』などによると、安土城において観内(かんない)という茶坊主が無礼を働き、信長の怒りを買った。観内は手討ちにされるのを恐れて逃げ、台所の膳棚の下へ隠れた。しかし、信長は手にしていた太刀で、膳棚ごと観内を圧切(へし切り)にし、成敗してしまったという。その切れ味の鋭さから、この刀は「へし切り」と呼ばれた。 のちに信長から黒田官兵衛に直接下賜されたとも、羽柴秀吉に与えられ、秀吉から黒田長政(官兵衛の子)に与えられたとも伝わる。いずれせよ、黒田家の家宝として長く所蔵されてきた。黒田家では「圧切御刀」とし、豪華な打刀拵(うちがたなこしらえ)を施し後世へ伝えた。 「へし切り」は、南北朝時代に京で活躍した長谷部国重(はせべくにしげ)が作った刀である。国重は大和(奈良県)に生まれたが、のちに相模(神奈川県)へ移り、長谷部鍛冶で修行。「相州伝」の作風を確立した刀工・正宗の高弟「正宗十哲」のひとりに数えられたという。 もともと長さが3尺(約90㎝)あったが、実戦を想定してか後世に磨り上げられて現在は約64㎝。銘の部分も削られたが、刀剣鑑定家の本阿弥光徳(ほんあみみつのり)により金象嵌(きんぞうかん)の銘が入れられた。 監修/稲田和彦 文/上永哲矢 『歴史人』2020年9月号「刀剣大全」より