オバマ元米大統領も愛した世界初スマートフォンの栄枯盛衰を描いた映画「ブラックベリー」
iPhone出現の衝撃
当時のニュースや資料映像に自然になじむ粒子の粗い映像が、90~00年代の空気を懐かしくも生き生きと活写する。そこで描かれるRIMのメンバーたちのギークっぷりに、魅了されない観客はいないだろう。携帯電話をバンドで耳に固定して通話しながら、アナログの電話回線でネットゲームに興じたり、ムービーナイトではみんなで映画を鑑賞したりと、遊び心のある(遊んでいるだけともいえるが)オフィスの風景がほほえましい。 特にダグは、映画Tシャツを日替わりで着用するほどの映画オタクだ。「ブレックファスト・クラブ」の〈大人になると心が死ぬ〉や「デューン 砂の惑星」の〈夢が現実になることもある〉など、ことあるごとに映画のセリフを引用する。マイクがギャラ交渉の練習をするときの参考映画は「ウォール街」だ。 マイクは身なりも言動もそれなりに洗練されていくが、ダグは何年たっても何一つ変わらない。Tシャツ&ヘアバンドのスタイルで、映画と仲間(もちろんマイクも!)を愛するダグを演じているマット・ジョンソンは、本作の監督でもある。彼のギークへの愛情があふれる描き方と演じ方が、本作における良心となっている。 本作は「スティーブ・ジョブズ」(15年)や「AIR/エア」(23年)などに類する、イノベーションの過程をスリリングに描いた人間ドラマだ。BlackBerryの命名の由来や、敵対的買収の危機にバルシリーが使った禁じ手、RIMの業績上昇とともに同社の株に群がるハイエナたちの無理難題をマイクたち開発者がどうクリアしていったのかなど、驚きのエピソードが満載だ。 「世界一の電話を作る」というプライドを支えに奮闘してきたマイクたちは、07年に終わりの始まりを迎える。トラックパッドで操作する初代iPhoneが発表されたのだ。世界初のスマートフォン、BlackBerryの始まりと終わりを描いたこの作品は、iPhoneの出現がどれほどの革命であり脅威であったのかを、業界や同業者側から記録したことに、皮肉にも特筆すべきの価値がある。 「ブラックベリー」はU-NEXTで配信中。
ライター 須永貴子