『無敵の犬の夜』著者、小泉綾子さんインタビュー。「はみ出しても自分らしく生きるとは」
「はみ出しても自分らしく生きるとは」
北九州の片田舎。学校に行かず地元の不良高校生と日々ファミレスでたむろする中学生の界(かい)。そんな中で出会った“バリイケとる”先輩、橘さんのために、彼はあることが原因で東京へ敵討ちに出かけることを決める――。 そんな筋立てで展開する本作で、小泉綾子さんは第60回文藝賞を受賞した。 そもそも作品を書くきっかけはどんなところにあったのか? 「任侠映画が好きで、『孤狼の血LEVEL2』を観てすごく感動して、若い人が暴れ回るようなエネルギーのある世界を私も書いてみたいと思ったのがきっかけです」 界には指がない。4歳の時にふざけてタンスに隠れていたら、勢いよく扉が閉められ、右手の小指と薬指の半分がとんでしまった。そして“それ(指が欠損していること)”は常に界の中で意識される。 【写真ギャラリーを見る】
「目に見えるコンプレックスというか、国籍とかセクシャリティと同じで、すごく気にしている反面自分のアイデンティティになっているというか……」
コンプレックスは無視をされても傷つく。
小泉さんは中2の時に東京から大分県に引っ越した。文化の違いに衝撃を受け、周りから好奇の目に晒されるという洗礼も浴びた。 「東京の言葉しゃべって、東京で買ったもの見せて、って外国人を扱うようにみんな見にきて」 すぐに東京に帰る。そう心に誓いながら、久しぶりに東京の友だちに会いに出かけると……。 「思いっきりおしゃれをキメていったつもりなのに、ダサいね、と言われてすごくショックで。その年頃、女子特有の仲間に入れてくれない感じに打ちのめされました」 その時、壁を作っていたのはむしろ自分かもしれない、それならば九州でいい感じで暮らしたい、という気持ちが芽生えた。 高校を卒業してからは「映画美学校」に通い始める。 「ヌーベルバーグやミニシアター系のものをたくさん観ていたつもりが、学校にはその何百倍も観ている人がたくさんいて……。え? 古い東映とかVシネとか観てないんだ、って言われたりもして」 愛してやまない『仁義なき戦い』はその頃に出合った。 「男同士のやるせない生き方、どうせ死ぬなら派手に死にたい、みたいな感じに美学を感じます」 作品ではいつも“それ”に引け目を感じて怯えながら暮らしている界が、橘さんの敵相手、ラッパーのリルサグと対峙した際にあっさり“それ”を無視されると、悔しくて涙ぐんだりもする。 「すごく気にしているからこそ、どう扱われるかをいつも気にしているわけで。完全に無視をされればされるで人は傷つくんだと思う」 思春期の葛藤、行き場のない怒り、刹那の衝動がふつふつと滾(たぎ)る小説は、ラストに向かって鉄砲玉のような暴走を試みる。 「世の中からずれていたり、はみ出していたりしても自分らしく生きていきたい、みたいな小説をこれからも書ければと思います」