【サッカー日本代表 板倉滉の「やるよ、俺は!」】第19回特別編 KCP in 石川 子供向け被災地復興支援イベントを開催!! 板倉滉 密着インタビュー
■被災地の中学校の厳しい現状を知って KCPの3軸のひとつ「日本食文化の普及」というコンセプト。板倉の日本食への関心は海外生活で高まったという。日本食のクオリティの高さを広めたい、そして何より子供たちの健康な体づくりのために。 そうした思いは第2部の昼食タイムで具現化された。昨年行なわれた神奈川県での第1回イベントでは、地元飲食店のキッチンカーや屋台などの出店はなかった。しかし、宮城県での第2回は出店数が9店舗、そして今回の金沢では13店舗と2桁に上った。 「スケジュールが立て込んでいて、各店を回ることができなかったのは残念でしたが、どこも大盛況だったと聞いて、素直にうれしいです」 板倉が控えめに表した喜び以上に、実際の反響ははるかに大きかった。例えば、金沢市内に構える手作り弁当のお店とKCPのコラボ。豚の生姜焼きやサバの塩焼き、切り干し大根など、板倉が試合前に食べる献立を再現したランチを専属シェフ・池田氏監修のもと提供したところ、瞬く間に完売した。 「今回、コラボしてくださったお店の皆さんともお会いできましたが、本当に温かい方たちで、すてきだなぁって思いました。お米は能登の契約農家さんが作ったコシヒカリ、能登塩といった地元の調味料を使った主菜や副菜など、各地方の良さを伝える意味でも、まさに僕たちが求めたコラボでした。県外から来られた観覧者の皆さんにも味わってもらう機会がつくれたのは非常によかったです」 着実に支援の輪は広がりを見せている。協賛企業は寝具メーカーの西川株式会社をはじめナイキ、水産業のKIEインターナショナル、日本遺伝子医学株式会社、そしてスポーツニュートリションブランドDNSの5社。観客も2000人近くまで膨らんだ。だが、仰々しさはまったくない。どこか手作り感のある、ぬくもりがこもった雰囲気。板倉の性格を投影しているかのようだ。
午後、第3部ではKCP運営がバスをチャーターして輪島市内にある輪島中学校の生徒23人を招待、チーム板倉とガチンコで15分ハーフの試合を行なった。 輪島市もまたこのたびの震災では死者106人、行方不明者3人を数え、844人がいまだ避難生活を余儀なくされている(5月21日現在、輪島市発表)。輪島中学校サッカー部コーチ・白崎太一氏はこう語ってくれた。 「最初は正直驚きました。現役の日本代表、板倉選手が本当に県内に来てくれるのかと。でも、こうして石川県のことを思ってくださって、本当にありがたいです。あの地震は忘れられません。正月休みで家にいたのですが、横にいた息子は『死にたくない!』と叫んでいました。それほど、すさまじい恐怖でしたよ」 「うちの部員たちは今もまともなグラウンドでサッカーができず、ゲートボール場を借りるなどしてプレーしています。道路も至る所がまだ傷んでいるので、ランニングもできません。震災を機に転校した生徒もかなりいます。板倉選手が開いてくださったこのイベントをきっかけに、生徒たちが少しでも前を向いてくれたらいいですね」 板倉もまた同じ思いである。 「輪島中の子たちがグラウンドで、ごく普通にサッカーができる環境にいないと聞いて言葉を失いました。これは日本国内の話ですからね。そういう子供たちに夢や希望を与えるという理念を実行しなければ、KCPをしている意味がないです。だから、必ず形にしたかった」 「まだまだそういう不自由な環境を強いられている子供たちはたくさんいると思います。この金沢のイベントだけで終わらせてしまったらダメ。心は石川県とともに。これからも続けていきます」 板倉の意思は子供たちにもしかと伝わっている。試合に参加した輪島中サッカー部の3年生はこう答えてくれた。 「僕は幼少期を金沢で過ごし、小6のときから輪島に住んでいます。板倉選手と同じCBをやっていて、まさか一緒にプレーできるとは思ってもいなかったです」 「しかもずっと笑顔だし、優しくて。『頑張ってね』って声をかけてくれました。プレーも速いし、うまいしさすがでした。僕も将来はサッカーに携わる仕事に就きたいです。もし、プロになれたら、板倉選手のように誰かに勇気を与えて励ます存在になりたいと思いました」 今後の板倉の動きに目を向ければ、2026年W杯北中米大会アジア2次予選のミャンマー戦(6月6日)とシリア戦(6月11日)が控えている。既に最終予選進出を決めている日本代表だが、板倉自身は消化試合だとはとらえていない。 「まだまだ僕自身は足りない部分が多い。この6月の代表期間は短いけれど、さらなるレベルアップにつなげていかないと。それはチーム全体としてもそうです。手を抜くことはできない。石川県の人たちにも頑張りを見せたいです」 常にがむしゃらに全力を出し切り、有言実行を貫く板倉の誠実さが老若男女の心をとらえて離さない。 「いやいや、元気を与えるつもりが、結局はいつも皆さんから元気をもらってるんですよね」 快活に笑う板倉だが、日本を代表するサッカー選手として、KCPの主宰として、人々とのパスワークはこれからも続いていく。 構成・文/高橋史門 撮影/山上徳幸