2024年度のレッドハットは「プラットフォームの未来をつくる」
レッドハット日本法人が、2024年度の事業戦略説明会を開催した。今年度の基本方針を「プラットフォームの未来をつくる」と定め、「デベロッパーエクスペリエンスの向上」「次世代ビジネスの成長」の2点を注力領域として掲げた。 【もっと写真を見る】
2024年で25周年を迎えたレッドハット日本法人。同社は2024年6月20日、2024年度の事業戦略説明会を開催した。今年度の基本方針を「プラットフォームの未来をつくる」と定め、「デベロッパーエクスペリエンスの向上」「次世代ビジネスの成長」の2点を注力領域として掲げた。 レッドハット 代表取締役社長の三浦美穂氏は、「DX白書」のデータを引用しながら、米国ではコンテナの活用と運用自動化を進めている企業が73.3%に達しているのに対し、日本では25.3%にとどまっていることを指摘。「まだ日本の多くの企業がコンテナを活用できていない。ここがレッドハットにとっての伸びしろになる。日本において、コンテナおよびコンテナ運用の自動化を推進していきたい」と語る。 さらに「仮想化ネイティブ、クラウドネイティブに続き、今後はAIネイティブの時代に入る」としたうえで、「2024年度はプラットフォームをさらに拡充する。デベロッパーやユーザー、運用者に、AIネイティブのプラットフォームを提供していく」と説明した。 仮想マシンでも「クラウドの運用体験」を、VMwareからの移行も支援 三浦氏はまず、2023年度を振り返り「好調な1年だった」と総括した。2023年度は「コアビジネスの拡大」「クラウドサービスの確立」「エッジビジネスの基盤構築」の3つを注力領域に掲げたが、コアビジネスは2桁成長を継続、AWSやAzureでのOpenShift利用も増え、「Red Hat Device Edge」の国内投入などエッジビジネスの基盤も出来上がった。加えて、顧客企業のアジャイルプロジェクト支援でも成果が上がっているという。 先述したとおり、2024年度のレッドハットは「デベロッパーエクスペリエンスの向上」と「次世代ビジネスの成長」を注力領域としていく。 ひとつめの「デベロッパーエクスペリエンスの向上」は、今後のビジネスをスケールさせていくうえでの「足元を固める」取り組みと位置付けている。三浦氏は「コンテナ活用およびコンテナ運用の自動化ができていない75%の日本企業において、ユーザビリティやプロダクティビティを向上させていく」と語る。 具体的な施策としては「DevSecOpsの強化」「クラウド体験への取り組み」の2つを紹介した。 DevSecOpsを強化していくためには、OSやミドルウェアといった製品の提供だけでなく、企業の文化や風土を変える支援も必要となる。レッドハットではアジャイル開発/内製化を支援する「Red Hat Open Innovation Labs」を提供しており、これを通じて伴走型でサポートしていく。また、開発ポータルの「Developer Hub」を通じたノウハウの共有、コンテナや自動化を促進するプロフェッショナルサービスの提供といった取り組みも行う。 Open Innovation Labsについては、顧客のアイデア創発や市場投入のスピードを加速させ、自律的な活動を支援するため、世界的に見ても優秀な日本のコンサルタントを活用していくとした。 またクラウド体験への取り組みでは、運用や管理の容易性を実現する「OpenShift Virtualization」や「Ansible Automation Platform」といったテクノロジーの提供を通じて、従来型の仮想マシン管理手法とは異なる「クラウドの運用体験」を浸透させていく。 「レッドハットの技術(OpenShift Virtualization)を活用することで、コンテナと仮想マシンを同じインターフェースで管理できる。(従来型の)仮想技術を生かしながら、将来に向けたオプションを提案可能だ」(三浦氏) OpenShift Virtualizationを用いた「次世代の仮想マシン管理」への移行に向けて、パートナーとのアライアンスも強化しており、国内ではOpenShift Virtualizationを支援するパートナーが増加しているという。 三浦氏は、VMwareを取り巻く環境変化の影響もあると説明した。 「レッドハットだけでなく、パートナーに対しても『困っている』という問い合わせが非常に増えている。次世代の仮想化を考えたいというお客様が多い。まずはアセスメントサービスを通じて、お客様の環境に適した選択肢を提案できるようにしている。さらに(OpenShift Virtualizationの)ハンズオントレーニングなどを用意するなどして、移行計画を支援していく」(三浦氏) 仮想環境の移行ニーズの高まりに対応して、レッドハットでは移行を促進しサポートするサービスを新たに発表している。移行関連のコンサルティングサービスやトレーニング、認定コースは、2024年8月末まで割引価格で提供する。また「RedHat Openshift Kubernetes Engine」「RedHat Advanced Cluster Management for Kubernetes」「RedHat Ansible Automation Platform」を採用したり、移行サービスのサブスクリプション導入を決定した企業に対して、アセスメントにかかる費用をサブスクリプション割引のかたちで返金する仕組みも用意している。 産業向けエッジ領域に新たなプラットフォームを投入 2つめの「次世代ビジネスの成長」では、エッジ領域の産業オートメーションや、Enterprise AIに注力し、顧客の次世代ビジネスを加速、育成していく方針だ。 産業オートメーションでは、Device Edge、Ansible Automation Platform、OpenShiftを組み合わせた「Red Hat Industrial Edge Platform」を投入している。このエッジプラットフォームを通じて、産業オートメーション向けソフトウェアのモダナイズを図り、工場の生産ラインをソフトウェアで集中管理可能にする狙いだ。 同領域の事例も紹介した。たけびしでは、Red Hat Device Edge上で稼働するレッドハット認定コンテナの「Device Gateway」を提供している。Ansible Automation Platformによる自動化ソリューションを共同開発することで、エッジ大量展開時の運用負荷を大幅に削減しているという。レッドハットの恵比寿オフィスには、両社開発の生産ライン運用デモ環境も展示している。 オープンソースの力で「エンタープライズAIの民主化」を図る Enterprise AIの民主化も実現していく。自社製品への生成AI採用(Red Hat LightSpeed)だけでなく、「RHEL(Red Hat Enterprise Linux)AI」「OpenShift AI」を通じて、顧客のAI開発も支援する方針だ。 ここでは、LLMに企業データを容易に取り込む新たな手法として「LAB (Large scale Alignment for chatBots)」を紹介した。このLABは、レッドハットとIBMリサーチが共同で提案するもので、従来手法のRAGやファインチューニングとは異なるものだ。 「AIを活用するためには『AIを育てる』ことも重要になってくる。企業ごとのルールを理解してアドバイスをしてくれるAIが求められており、データサイエンティストが在籍していなくても、多くの人に最適なAIを利用してもらえる環境を構築する。2024年度後半に向けても製品を発表していく」(三浦氏) レッドハット テクニカルセールス本部の北山晋吾氏は、LABによって「(AIの)専門的知識を持たないエンジニアでも、質問への回答というかたちで個人の知識を拡張子、それを調整してLLMに注入できる」と説明する。これにより、少量のデータと少量の計算で“自社独自のAI”が活用可能になるという。 レッドハットでは、5月の「Red Hat Summit」において、オープンなLLM開発モデル「InstructLab」を発表している。このInstructLabを通じて学習データの基となるスキルや知識をコミットすれば、AIの専門知識を持たなくても、LABを使ってIBMのLLM「Granite」を学習させることが可能になるという。 北山氏は「オープンソースの開発スタイルで、企業のAIを育てることができるもLABの特徴」であり、「誰もがAIを育てられる環境が整う。AIの民主化が実現する」と説明した。 文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp