戦争を経て過去には反発も…“皇室外交”で取り戻した“特別な関係”両陛下訪英
■イギリス最高位“ガーター勲章”授与へ
(Q.午後8時半から晩餐会が予定されています。晩餐会の見所はどこにありますか) 君塚直隆教授 「私が個人的に注目しているのは、天皇陛下がなされる勲章です。昼食後にお互い勲章を交換し合って、贈り物を交換し合うというのが通例です。それぞれの国の最高勲章になりますが、イギリスの場合は『ガーター勲章』です。ガーター勲章は元々、キリスト教徒にのみ与えられるのが原則でしたが、19世紀ヴィクトリア時代に変更があって、20世紀になってからは非常に厳しい。エリザベス女王陛下は非常に儀礼に厳しい人でしたが、日本の場合、非常に特別な関係で結ばれていくということで、1906年に明治天皇がもらってからは、日本の天皇のみがキリスト教徒でないガーター勲章受賞者となります。明治、大正、昭和、そして今の上皇陛下。恐らく今回も、天皇陛下はガーター勲章を授与されるのではないか。一方、日本の側もおそらく今回『大勲位菊花大綬章』という最高勲章をチャールズ国王に、女性用の最高勲章『宝冠大綬章』をカミラ王妃に持って行っています。お互いの勲章をつけあって晩餐会に臨むのは、友人の証ということで、非常に重要な儀礼です」 (Q.1998年の晩餐会では、今の上皇陛下が「戦争」に触れられました。天皇陛下は今回、どのようなおことばを述べられると思いますか) 君塚直隆教授 「チャールズ国王も天皇陛下も戦後生まれですが、もちろん戦争のことは忘れないと。チャールズ国王のおことばでは戦争に触れられると思います。天皇陛下もより“未来志向”の話をするのではないかと。『今後、新たなる日英同盟を結んでいこうじゃないか』という声も最近ささやかれていますので、恐らくそういった言葉から、ご自身のオックスフォード時代の思い出や、チャールズ国王たちとの思い出などに重点が置かれると思います」
■155年の交流“特別な関係”
王室と皇室の交流を振り返ります。 昭和天皇は1971年、上皇さまは1998年に国賓としてイギリスに招かれていますが、ともに皇太子時代にもイギリスを訪れています。昭和天皇は1921年、初の外国訪問がイギリスでした。この時、国王ジョージ5世から「立憲政治の在り方について聞いたことが、終生の考えの根本にある」と後に述べています。 その後、第二次世界大戦で敵国となった日本とイギリス。戦後に即位したのが、エリザベス女王でした。当時、皇太子だった上皇さまは1953年の戴冠式に出席され、両国の交流が復活しました。 そして、現在の天皇陛下も、約2年にわたるイギリス留学中は王室メンバーとも交流されました。 (Q.日本とイギリスは民主国家ですが、伝統や威厳が大きな支えになっていることは、世界の民主国家のなかでも特徴的だと言えますか) 君塚直隆教授 「その通りだと思います。君主制は世襲的で一見すると民主主義とは矛盾するように見えますが、実はそうではなくて。今、混沌としている世界・政治のなかで、そういったものから超越している公正中立の立場。さらに、社会的弱者に手を差し伸べているのは各国の王室です。特に立憲君主制はそうです。日本やイギリスの場合もそういった存在がいてくれるから安定性・継続性が保てる。ジョージ5世は少年時代に明治天皇から歓待を受けています。そして、その孫である昭和天皇をジョージ5世が。さらには、昭和天皇側がジョージ5世の孫のエリザベス女王を。このように代々受け継がれている。これが立憲君主制の極意であって、私は“ソフトな外交”と呼んでいます。これは共和制ではハードな外交しかないので無理です。また、大統領や首相は任期があります。代々引き継いでいけるというのが、今回のイギリス訪問にも反映されています」 (Q.イギリス王室はSNS発信も盛んに行っています。日本の皇室もそこを良い意味で学ぼうとしていますが、今後どのようなことが必要になりますか) 君塚直隆教授 「イギリスの場合、ダイアナ妃事故からの教訓もありました。あるいはその前から、エリザベス女王はクリスマスメッセージを毎年、70年にわたってやってきて、今はチャールズ国王が引き継いでいます。国民にどんどん近付いて、自分たちの活動がどんなものかをSNSを通じて発信している。ヨーロッパの人たちもどんどん真似ています。ようやく日本でも今年の4月からInstagramを開始しましたが、これは重要なことです。天皇とは何か。国王とは何か。王室とは何かということを、国民にしっかり分かってもらう。それによって、より親しみも抱いてもらえますが、やっぱり理解を深められる。今回の訪問にあたって、色々とノウハウも聞いてほしいなと思います」
テレビ朝日