【ドキュメンタリー】58年 無罪の先に-袴田事件と再審法- 世紀を超えた冤罪事件が問いかけるもの#5
再審法改正に向け闘いは続く
一方、殺害された夫婦の孫は複雑な感情を抱いている。 現在の思いを綴った手記には「裁判所が出した判決、そして、これまでの審理に基づき控訴を断念した検察の判断は受け入れています。ただ、再審開始決定、そして、無罪判決まで長期間にわたったこと。それによって袴田さんが死刑判決を言い渡されたことしか知らずに亡くなった当時の方々のこと。現状からは時が経ちすぎ、あらゆる状況からでは真相解明することが難しいこと。若くして亡くなった被害者は決して報われません。事実に基づいた審理のために再審法については証拠開示の制度を設けることが必要ではないでしょうか。不服申し立てについてはその判断が正しいのかを検証する第三者機関を設けるなどシステムの精度を上げると同時に、その規定が双方(検察官・弁護人)に対し公平であることが必要ではないかと、素人ながらに思います」と書かれている。 こうした中、いま全国各地の地方議会で可決されているのが再審法の改正を国に求める意見書案だ。 福井女子中学生殺人事件で、巖の無罪確定から約3週間後に再審開始が確定した前川は「再審に新しい風が吹き始めていると思う。獄中にはまだまだ冤罪で苦しんでいる人がたくさんいる。注目されている人はまだまし。監獄の在り方や刑事司法の在り方、言い出せばきりはないが、福井女子中学生殺人事件がそれらに与える影響が多少なりともあるのであれば私は本望」と話す。 ひで子は言う。 「冤罪事件なんてウチだけだと思っていた、当時は。ウチだけこんなひどい目に遭っていると思っていた。そうではないということがわかった。死刑囚は命を取られるから私は一生懸命やったけれど、そうでない人だっている。その人たちだって助けなきゃ。法律を変えないとしょうがない。国会議員にも弁護士にも頑張ってもらって、いっぺんに変えるのは無理だから、ひとつずつでいいから変わってもらわないとしょうがない」と。 言わずもがな冤罪は最大の人権侵害だ。 ひで子は冤罪の被害者として生きた弟の58年間を無駄にすることなく、警察や検察、裁判官、そして弁護士、司法に携わる者が今一度、この年月の重みをしっかり検証してほしいと願っている。 ここに30年以上前、死刑の恐怖に怯えながらひで子に宛てた巖の手紙がある。 「裁判で無実であったことの事実が認められても、すでにその時は再審請求を度重ねたあとであり、人生を純粋にやり直すにはあまりにも遅すぎた」 「私は当裁判所に・未提出証拠物の全提出命令を検察官に対して発してほしいのである」 「本件の誤判を速やかに正し得る最大の力とは今日未提出の証拠物の全面開示、つまり権力による真実の解放にある」 闘いはまだ終わっていない。 (テレビ静岡)
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