〈総裁が変われど絶望的な未来〉自民党裏金問題、公選法違反疑惑…三代目の“世襲政治家”に日本の未来を期待できない5つの理由
国立大学法人法「改正」に「桜を見る会」における公選法違反疑惑
第2に、三代目の世襲は往々にして地べたに這いつくばって努力した経験がなく、世襲として経営トップを引き継ぐことが最大の目標になっている。岸田文雄首相は典型的で、首相になりたいだけで、何をしたいというこだわりがなく、会社の未来に関してはほとんど何も考えておらず、少なくとも思いつき以上のものを表明することができない。 「お家騒動」がある会社だと、何よりも優先的に考えることは、後継者を潰すことである。安倍元首相も岸田首相もその典型である。そして自分を初代より劣っていると、比較されることを嫌い、失敗しても失敗を認めず、謝罪せず、経営方針を変えず、自己正当化ばかりしている。 第3に、「世襲」というのは、公正な選抜基準はなく家柄とか縁故という「私的」な基準なので、公的立場にありながら周囲では極めて「私的」な人間関係が形成される。それゆえ民主主義という統治原理とは相反することがある。 時には、三代目世襲は絶対的支配者のように振る舞うのを好む。そのために、周囲できちんとした意見をする者を排除する。2014~2015年以降、内閣人事局で忖度官僚だらけにし、放送法解釈変更で批判的な司会者やコメンテーターを徹底的に排除し、日本学術会議の任命拒否や国立大学法人法「改正」で大学や科学者の自治を壊すのである。 さらに行けば、自分のご機嫌をとる者をひいきし、主として金銭関係や許認可関係などの「利益」が与えられる。そのために森友学園の国有地売却事件、国家戦略特区における加計学園の獣医学部の情実認可の疑惑、「桜を見る会」における公選法違反疑惑など公私混同の行為が横行する。三代目世襲経営者は会社の会計などの粉飾を始めると末期症状だが、安倍政権の下では公文書や統計の改ざんが行われてきた。
通常の企業と違い、国家の破綻の前兆が見えにくい理由
第4に、会社の内輪(内部事情)を優先して、客のニーズを無視し、客に不良品を押しつけ始めると、これは潰れる前兆である。マイナンバーカードは欠陥カードであって民間企業ならとうに潰れていたのに、売れない商品やサービスを客=利用者に押しつけて平然としている。 あるいは、世論的にとても支持されているとは言えない、本来医療に使うべき健康保険の保険料負担に子育て支援金を上乗せするのもおかしい。後述するように、裏金問題も国民世論を無視して、内輪だけを考えて甘い「処分」で終わらせようとするのも基本的に世襲の特性から来ている。 第5に、会社(国家)を自分のものだと勘違いして私物化する。ついには裏金作りを始めると、もはや末期症状である。異常に借金を膨らませて宴会をして平気になってしまう。サラ金経営に陥って潰れそうになると、経営者も幹部も通常の健全経営ではありえないような裏金作りを始める。国会議員のレベルではパーティ券裏金作り、政府のレベルでは使い道がチェックされないような予備費を膨らませ、官僚は基金を膨らませるのである。 社員も労働組合も将来不安を抱えているが、目先の給料を上げてもらうことしか言わない。経営がしだいに長い付き合いの銀行への借金頼みになっていく。国の場合、通常の企業と違って中央銀行がお札を刷れるので、「失われた30年」と言われるように、ある程度長持ちしてきたが、破綻するときは極めて悲惨である。三代目世襲政治家は家業が潰れるまでしがみつくために、自民党だけでなく国も潰れていくことになるだろう。 文/ 金子勝
---------- 金子勝(かねこ まさる) 1952年6月、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。法政大学経済学部教授、慶應義塾大学経済学部教授などを経て、淑徳大学大学院客員教授、慶応義塾大学名誉教授。 ----------
金子勝