大谷翔平のナ・リーグMVP満票選出の理由――メジャーリーグMVP投票記者が語る「私の主張」
ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平が大方の予想通り、2024年のナ・リーグMVPを受賞した。ロサンゼルス・エンゼルス時代にア・リーグのMVPに2度輝いたのに続き、この4年間で3度目の栄誉。しかも30人の投票者がすべて大谷に1位票を投じ、満票という文句のない結果だった。 この選考のプロセスを知るため、ナ・リーグMVPの投票権を持った3人の現地記者たちに意見を求めた。シーズン後半、一時は遊撃手としての守備の評価も高かったニューヨーク・メッツのフランシスコ・リンドアを推す声が増えた時期もあったが、最終的に大谷が圧倒的な支持を得た理由はどこにあったのか。また、フルタイムのDH(指名打者)としては初めてMVPとなったことの意味をどう考えるべきか。それぞれの視点から語ってもらった。 ★パネリスト デビッド・レノン(『ニューズデイ』紙のコラムニスト。ニューヨーク在住 Twitter : @DPLennon) スコット・ミラー(『ニューヨーク・タイムズ』紙の通信員。2022年に大谷の特集記事を執筆。サンディエゴ在住 Twitter : @ScottMillerBbl) ステファニー・エプスタイン(『スポーツ・イラストレイテッド』誌のシニアライター。ニューヨーク在住 Twitter : @stephapstein) 1. 大谷がMVPに相応しいと考えた理由は? レノン : 大谷はDHながら"50-50クラブ入り(最終的には54本塁打、59盗塁)"というとてつもない数字を残すほどすごい活躍で、相手投手に脅威を感じさせた。そこまでの活躍でなかったら、MVPは、よりオールラウンドに貢献したリンドアだったかもしれない。ただ、現代野球で重要視される打撃成績で、大谷がダントツだった。 本塁打は2位のマルセル・オズナ(アトランタ・ブレーブス)より15本も多く、打点は2位のウィリー・アダメズ(ミルウォーキー・ブルワーズ)を18も上回っていた。打率も首位打者のルイス・アラエス(パドレス)と4厘しか変わらず、三冠王寸前に迫った。59盗塁を成し遂げた上で、盗塁死は4のみ。OPS(出塁率+長打率)1.036はオズナの.925を大きく引き離していた。 DH専任だった大谷は守備につく選手の半分の時間しかプレーしない選手だったとしても、その打撃成績は消化試合の中で叩き出されたものではなかったことも見逃せない。故障者続出のドジャースがナ・リーグ西地区を制すためには、159試合に出場した大谷の働きが必須だった。負傷者リストに入った選手の数(26)はメジャー2位だったように、シーズンを通して故障による欠場者の多かったドジャースのなかで、"エンジン"と呼べる存在であり続けた。 ムーキー・ベッツが欠場した44試合では16本塁打、36打点、32得点、OPS1.024という成績も特筆に値する。地区首位を争ったサンディエゴ・パドレスの追い上げを受けた9月も打率.393、10本塁打、32打点、OPS1.225と自己最高の1カ月を過ごした。それらを考慮すれば、DHのMVP受賞を好まないオールドスクール的な投票者ですら、大谷に1位票を入れずにはいられなかった。 ミラー : 私が大谷に1位票を投じたのにはいくつかの理由がある。何よりも、メジャーの歴史上で誰も成し遂げたことがないことを達成したのが大きい。改めて振り返っても、50-50はとてつもないことだ。それに加え、昨季中、ベッツが故障離脱している間、打順が2番から1番に上がり、それまで以上の活躍でチームを引っ張った。ドジャースへの貢献度の高さは計り知れないものがあったと思う。ドジャースはメジャー最高勝率を挙げたが、その主要因は大谷にあったというのが私の見方であり、MVPに相応しいと感じた重要な理由だ。 エプスタイン : MVPとは"歴史に刻まれるもの"だと認識している。2024年のシーズンのなかで、私たちは真っ先に何を思い出すだろう? ナ・リーグの最大のハイライトは大谷が史上初めて"50-50クラブ"入りを果たしたことだったに違いない。リンドアも攻守両面ですばらしいシーズンを過ごし、後半戦は快進撃を続けたメッツの推進力になったのだから、大谷との差は際どいものになるかと思えた時期もあった。しかしリンドアは終盤戦で故障を負い、大事な時期に何試合か欠場したことが大きかったと思う。それほど騒がれることはなかったが、ケテル・マルテ(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)、エリー・デラクルス(シンシナティ・レッズ)もいいシーズンを過ごした。ただ、すべてが終わって振り返ってみれば、"50-50"に到達した"マイアミの夜"(*)は、100年後までベースボールファンの間で語り草になるのだろう。だとすれば、大谷がMVPでしかるべきだ。