自由進度学習への挑戦が注目された東京都港区の授業――第50回 全日本教育工学研究協議会全国大会
自由進度学習にはさまざまなお膳立てが必要
つくば市立島名小学校 教諭の宮本豪氏が「子どもに委ねる授業」として実践してきた自由選択・自由進度学習の報告は、効果を得るためにはさまざまな工夫が欠かせないことを示している。児童はまず、自分たちの目標や学びたいことから「学びの地図」を作成する。学習する手段は、学習者用デジタル教科書や学習支援ツールはもちろん、動画や生成AIも選べる。児童が調べた情報は、「OneNote」上で共同編集でき、グループ内でスムーズに情報共有できるようにした。 さらに、ジグソー法を取り入れたインタラクティブセッションを設け、異なる課題や学習単元に取り組んでいるグループ同士が互いに発表し合う。これにより「すでに終えたグループから、まだ取り組んでいない課題を学ぶことで、今後の学習の見通しが立てやすくなり、復習の際にも役立つ」(宮本氏)という。こうした授業の結果、単元テストの点数が上がったとしている。
小さな学校にAI転校生がやって来た
今回の研究発表では、生成AIに関する報告も多かった。つくば市立研究学園小学校 教諭の内田卓氏は、小学5年の理科授業で生成AIを転入生としてクラスに迎え入れることによって学習の活性化を図った。 授業を実践した学校は、同じ茨城県つくば市内の前野小学校。大規模校が新設される市中心部とは対照的に、学年単学級の小規模校だ。内田氏は、「クラスメートがずっと変わらず、多様な考えに触れる機会が不足している」と考え、生成AIを北海道と沖縄という全く異なる地域から来た転入生という設定にして、児童たちとは異なる意見や評価をする役割を持たせた。 授業後のアンケートでは、82%の児童が「生成AIの意見が学習に新たな発想をもたらしたと感じた」という。生成AIパイロット校で先行する授業では、AIを「もう一人の仲間」として加えることで、子供たちの議論を活発にさせたり、これまでにない気付きを与えたりする効果が確認されている。今回の実践のように、小規模校では特にその効果が大きい可能性がある。
文:江口 悦弘=日経パソコン