自由進度学習への挑戦が注目された東京都港区の授業――第50回 全日本教育工学研究協議会全国大会
日本教育工学協会(JAET)は2024年10月25日~26日、「第50回 全日本教育工学研究協議会全国大会」を東京都港区で開催した。赤坂小学校・赤坂中学校など港区立の小中学校4校(一貫校を含む)においてICTを活用した授業を公開したのをはじめとして、講演や研究発表、ICT関連企業の展示などのプログラムが実施された。 【図版】他の写真や関連資料を見る 小中一貫教育校 赤坂学園赤坂小学校・赤坂中学校では、1年生から9年生(中学3年)まで各教科の授業を公開した。6年生の社会科は、戦国時代について児童たちがグループまたは1人で調べ学習をした。教科書や副教材、デジタル教材、さらにはまんが本まで動員して調べながら、用意されたワークシートに記入していく。教室内では、机を寄せ合って話し合う子もいれば、1人で端末に向かう子もいる。教室外のテーブルに集まって相談する子たちもいた。かなり自由に学ばせている印象だ。 多くの児童は楽しそうに学んでいたが、何人かはグループに参加せず1人で学習していた。それがその子にとって最適で、自分のペースで学べているのならよいが、気になるのは、あてもなく教科書のページを行ったり来たりしているだけの児童がいたこと。学習が進んでいるように見えないが、教員が声をかけることは、見ていた15分ほどの間では一度もなかった。
iPadとWindowsパソコンを活用、言うほど簡単ではない自由進度学習
8年生(中学2年)技術科の授業では、図書室に併設されたメディアセンターに生徒が集まってグループ学習をした。ここでは各自の「iPad」に加えてWindowsパソコンが使える。生徒たちは両方を使いながら、ワークシートに書き込んだりスライドを作ったりしていた。 同校には屋内に温水プールがあり、肌寒い朝にもかかわらず水泳の授業も実施していた。iPadを防水パッケージに密封し、生徒が泳ぐフォームを水中で撮影。動画を見返しながら指導を受けた。 今大会の準備段階からよく聞かれたキーワードが「自由進度学習」や「複線型の授業」だ。2024年2月に開催されたプレ大会でも、公開校の教員たちから複線型の授業に取り組んでいるという報告があった。加えて、今大会の研究発表でも「単元内自由進度学習」をテーマにした実践が複数あり、いずれも多くの聴講者を集めていた。 例えば、宮城県の栗原市立築館小学校 教諭の髙橋陸氏は、「これまでの一斉指導では学力が下位層の指導に時間がかかり、できる子たちが飽きてしまう」という課題を感じていた。そこで、算数科の授業において、適用・応用問題に取り組む自由進度学習を取り入れた。この授業前後にテストを実施し、学力層別にどのように変化したのかを調べたところ、意外な結果が出た。 「小数のわり算」の単元では、学力中位層の児童が下位層に落ちてしまうことがあった。反対に「合同な図形」の単元では、下位層から多くの児童が中位層に移行した。髙橋氏は自由進度学習を、「一斉授業で飽きていた上位層の子供たちに、ほかの多様な問題に触れさせることができた」と評価する一方、「必ずしも全ての児童に対して効果的ではない」と分析した。