【ネットの情報は自由であるべきか?】テレグラム創業者逮捕が示唆したこと、オンラインサービス事業者は「たんなる通信路」ではない
日頃から、各国の当局による言論の弾圧などを舌鋒鋭く批判している、オンラインでの人権保護などの活動を行うアクセスナウというNPOがある。彼らも、ドゥーロフ逮捕に際して声明を発表したが、勾留自体は好ましくないとしながらも、テレグラムが「著しく透明性を欠いていて、関係当局との適切な協調を行っていない」とし、フランス政府の行動に一定の理解を示している(Access Now, 2024“Access Now’s Statement on Telegram CEO Pavel Durov’s Detention.” Retrieved September 9, 2024)。その道に明るい人権団体ですら、本件を不当な逮捕とは言い切れないほどに、テレグラムでは違法有害な情報が飛び交っていたということである。
転換期にあるネット上の情報への考え
ドゥーロフの勾留、あるいはブラジル政府がXの使用を禁止するなど、オンラインサービス事業者と民主主義国家との間の緊張が高まっている。これらの出来事はインターネット上の情報の流れが転換期にあることを、改めて浮き彫りにしている。 これまで「自由で開放的な」インターネットが求められてきたが、今後は「安全で信頼に足る」インターネットが優先されるようになる( Fick, Nathaniel, Jami Miscik, Adam Segal, and Gordon M. Goldstein. 2022. Confronting Reality in Cyberspace: Foreign Policy for a Fragmented Internet.)。前者の精神を象徴する1996年の米国の通信品位法230条、および後者を実現しようと2024年に欧州で発効したデジタルサービス法、2つの法律の内容に、我々が目指した世界と、今後目指す世界が明確に示されている。 米国の通信品位法はITバブル真っ只中に成立した法律である。それまで研究者らに限定されていたインターネット利用の裾野が広がり、児童ポルノなどの有害コンテンツが新たな問題として浮上していた。そのような背景の中、同法は、インターネットサービスプロバイダなどのオンラインサービス事業者に対して、表現の自由に熟慮の上で、コンテンツに対する説明責任を課した法律として理解されている。 通信品位法の230条は、オンラインサービス事業者に大きな特権を与えた(Koseff 2019 The Twenty-Six Words That Created the Internet. Cornell University Press.)。前提として、言論の自由を定めた合衆国憲法修正第1条のもとに、書店や新聞社などが違法なコンテンツの流通を止めなければ仲介者としての責任が問われる。 そんな中で、通信品位法230条は、インターネット上での情報の仲介者たるオンラインサービス事業者は、あくまで情報を右から左に流しているだけであり、その上を流れる情報について責任を追求されないと明記したのである。おかげでソーシャルネットワークサービスや検索エンジンなどのオンラインサービス事業者は、ユーザーが投稿する様々な情報を制御する義務から解き放たれ、低コストで、新しいチャレンジを行うことができた。 その後およそ20年の間、オンラインサービス事業者は、「たんなる通信路(mere conduit)」としてインターネットという場における情報の流れが滞ることがないよう、安定したインフラの提供を社会から期待されてきた。その上を流れる情報の中身に積極的に関知しないことで、表現の自由や通信の秘密を守ることを求められてきた。 通信品位法成立から28年が経ち、今日のインターネットは単なる実験の場などではなく、生活に欠かせないものとなった。その上を流れる情報について、偽情報やヘイトスピーチ、児童ポルノその他ありとあらゆる問題が指摘されている。