ヒオカ「クリスマスが来ると思い出す。〈派遣さん〉としか呼ばれない、二度と会わない私に優しくしてくれたスーパーの人」
貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。現在も「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。第56回は「二度と会わない『派遣さん』に優しくしてくれた人」です。 * * * * * * * ◆人の本性がよく見える 「派遣さん」「マネキンさん」「アルバイトさん」。 転職活動をしながら非正規雇用を転々としていた時、名前で呼ばれることよりも、そうやって雇用形態をさん付けで呼ばれることが多かった。短ければ1日でいなくなる人の名前なんて、いちいち覚えていられないのだろう(と言いつつ、年単位でいても名前で呼んでもらえないこともざらにあるが)。立場が低い非正規、さらに期間が短い現場であればあるほど、人の本性がよく見える。 人は自分に利益がある人になら取り繕うが、そうでない人はぞんざいに扱うものだ。有期雇用の非正規に愛想よく、親切に接してもしなくても、正社員には何のメリットもないのだから。 朝一番に挨拶をしにいくと、「こっちは派遣なんていらないんだよ。上が手配しちゃって困ってる」とため息をつかれたこともある。 必要なことをほとんど教えられずに現場で働くよう言われ、分からないことを聞くとブチギレられたり、顎を振って「あれだよあれ」と指示されたり、酷い時は機嫌が悪い社員からみぞおちに肘鉄をくらったこともあった。
◆この季節になると、思い出す出会いがある もちろんそんな現場ばかりではなく、ちゃんとしたところもあったが、だんだんぞんざいに扱われることに慣れ、感覚が麻痺していく。1日を終えると何の気力も体力も残っていなくて、布団に倒れ込み、泥のように眠る。ただ心を無にしてやり過ごすだけの毎日だった。 派遣にいい思い出は少ないのだが、この季節になると、思い出す出会いがある。大学生になったばかりの私は、人生で初めて単発の派遣というものをやった。クリスマスイブの1日だけスーパーにいって、予約されたクリスマスケーキをバックヤードからとってくるという仕事だった。 朝一番で現場の責任者に挨拶にいくのが派遣のマニュアルなので、その日も売り場の責任者に「今日お世話になります。よろしくお願いいたします」と挨拶したが、開店前は慌ただしく、無言で会釈されただけだった。 バックヤードには大量のクリスマスケーキがあり、ひとつひとつに細い紙が貼り付けられている。そこに予約したお客様の情報が書いてあり、店員から言われたものをレジまで運ぶ。クリスマスイブの夕方はとてもあわただしく、次々と客がケーキの引き取りにやってくる。 レジも混み合っているので、現場はピリついていて、店員もイライラし始める。「Aさんの持ってきて」と言われて持っていくと、「違う、Bさん!!」と言われ、また持っていくと、「いや、Aさんだよ。さっきので合ってたのにあなたが間違えたんでしょ?!」とキレられる。