カリフォルニアワイン、サステナビリティー最先端の取り組み 環境でワイン離れ防ぐ
■Z世代は環境問題を意識
ワインの世界的な権威「マスター・オブ・ワイン」の資格を持つリズ・サッチさんは基調講演で、米国のワイン消費が2022年、2023年と急減していることや、現在、全ワイン消費量の約9%を担い、今後、消費の主役に成長するZ世代(18~26歳、ただし米国の飲酒年齢は21歳から)は環境問題に配慮して造られたワインを好んで買う傾向が強いことを詳細なデータで指摘。市場で生き残るためにはサステナブルなワインを造り、積極的にアピールしていく必要があるとアドバイスした。 オレゴン州の高級ワイン産地ウィラメットバレーから参加し、パネル討論にも登場したパム・ターナーさんは「サステナビリティーはマーケティングの道具」と言い切る。経営する「アンバー・エステート」はウィラメットバレーで初めて再生型農業の認証制度「ROC」を取得した。
■カリフォルニアの強み、UCデービスとシリコンバレー
サステナビリティーを推進していく上で他の産地にはないカリフォルニアの強みは、UCデービスとシリコンバレーを域内に抱えていることだ。 サンフランシスコから内陸に入った場所にあるワイナリー「ウェンテ」は、除草などのために最新鋭の無人電動トラクターを導入した。化石燃料を使わないためCO2排出量の削減につながるという。トラクターを開発したのは農機を手掛ける米新興のモナーク。同社の共同創業者はシリコンバレーに本社があった時代の米テスラの元幹部だ。 ワインライターでカリフォルニアワインに詳しいイレイン・チューカン・ブラウンさんは「大手生産者の8割はUCデービスやシリコンバレーの企業とサステナビリティーで協働している」と話す。フランスのボルドーやオーストラリアなども世界的に名高い研究機関を有するが、シリコンバレーのようなハイテク企業の集積地はない。 若い世代のワイン離れはカリフォルニアだけでなく、各国共通の課題だ。同世代が環境問題に関心が高いことも世の東西を問わない。世界4位の生産量を誇るカリフォルニアがサステナビリティーで攻勢を強めれば、世界市場への影響は決して小さくない。 文:猪瀬聖(ワインジャーナリスト)
猪瀬聖
WSET認定Diploma(DipWSET)。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート/Sake Diploma。チーズプロフェッショナル協会認定チーズプロフェッショナル。著書『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)。元日本経済新聞社ロサンゼルス支局長。 ※この記事は「THE NIKKEI MAGAZINE」の記事を再構成して配信しています。