カリフォルニアワイン、サステナビリティー最先端の取り組み 環境でワイン離れ防ぐ
ナパバレーの「マサイアソン」、農薬も化学肥料も使わず
ナパバレーの「マサイアソン」は家族経営の小規模なワイナリーながら、評論家や愛好家の評価が非常に高い。傾斜地に立つワイナリーを訪ねると、隣接するブドウ畑は全く手入れされていないかのように草が生い茂っていた。「この区画は2017年に買ったものだが、購入して以来、除草剤をまいたことがない」とオーナーで醸造家のスティーブ・マサイアソンさんは話す。 マサイアソンさんはもともと農薬も化学肥料も使わない有機農業を実践する有機農家で、農業コンサルタントでもある。2003年にワイナリーを建て、有機ブドウを使ってワイン造りを始めた。ワイナリーの建物の壁には有機農家であることを証明する米農務省(USDA)の認証マークが張ってある。 草は土を軟らかくして微生物の活動を促し、ブドウの成長やワインの味わいに好影響を与えるとマサイアソンさんは説明する。シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンなどのワインを何種類か試飲したが、どれもとてもジューシーで評判にたがわぬ味わいだった。
■最大普及の認証、ブドウ園は2500超が取得
サステナビリティーへの取り組みを消費者にアピールする上で重要なのが認証制度だ。複数ある認証制度の中で、カリフォルニア州で最も普及しているのが、業界団体が共同で設立した非営利組織「CSWA」が認証するカリフォルニア・サステナブル・ワイングローイング認証(CCSW、冒頭の写真)。2010年にスタートし、2023年3月時点で2584のブドウ園、188のワイナリーが認証を取得。カリフォルニアの全ブドウ畑の面積の38%、カリフォルニアワインの総生産量の80%を占める。 認証制度はしばしば基準の緩さが問題になる。だが、CCSWは2023年10月、持続可能な農業の確立を目指して2002年に設立された国際機関「SAIプラットフォーム」から、最も優れた認証制度に与えられる「ゴールド」を獲得した。ブドウ栽培でゴールドを得た認証制度は2024年6月現在、世界でCCSWだけだ。 CCSWの認証を取得するのは簡単ではない。ブドウ畑に関しては、虫害やカビの予防を具体的にやっているか、認証制度が禁じている農薬を使っていないかなど60項目をクリアしなければならない。ワイナリーに関しては、再生可能エネルギー使用や水の節約の有無など41項目(いずれも2023年時点)。しかも毎年、監査が入る。そこまで徹底的にサステナビリティーに取り組む理由の一つは、このままではワイン産地として立ち行かなくなるという強い危機感だ。 滞在中、サンフランシスコ市近郊で「第3回米国サステナブル・ワイングローイング・サミット」が開かれた。全米から参加した約250人の関係者がサステナビリティーに取り組んでいることをいかに消費者に伝え、販売増につなげるか真剣に討論する姿に、生産者の決してきれいごとではない赤裸々な本音を垣間見た。本音だけに議論や主張に迫力や説得力があった。