鹿島はなぜ下克上Vを果たせたか? 背景にある18個の冠と伝統の力
1990年代の秋田豊から岩政へと継がれてきた「3番」の持ち主となって2シーズン目の昌子は、「鹿島の伝統と聞かれても、正直、よくわからない」と苦笑いしながらこう続ける。 「満男さんが以前に『もともと強かったわけではなくて、タイトルを獲ることで強くなってきた』と言ったことがある。こうやって年間王者になったことで、あらためて『鹿島なんだ』と思うし、これでまたちょっと強くなれたのかなとも思う。いまの鹿島は、満男さんとソガさん(曽ヶ端)を中心としたチームであることは間違いないし、2人についていけば優勝できるんじゃないか、という背中を常に見せてくれる。 あの2人こそが伝統であり、2人についていったからこそ『勝負強い』とも言われるだけ。じゃあ2人が引退とか、大きなけがをして当分出られんとなったときに誰が代わりをできるかとなれば名前はあがってこない。いつまでも頼るわけにはいかないけれども、あの2人あっての優勝というのもまた事実です」 PK獲得の瞬間こそピッチにいなかったが、小笠原が背中で伝えてきたイズムは常に脈打っている。15個ものタイトル獲得に絡んできたレジェンドは、試合後にこんな言葉を残してもいる。 「チームが勝負強いわけじゃない。一生懸命に練習からやって、試合でも必死に戦って勝ってきた。勝負強いから勝てるというほど、この世界は甘いもんじゃない。そこははき違えちゃいけない」 まだまだ欠かせない存在ながら、昌子たちの世代が引く継ぐ覚悟が芽生えたことは「いつまでも頼るわけにはいかない」という言葉が物語ってもいる。浦和を倒した下克上に導かれる自信に、鈴木強化部長も思わず目を細める。 「彼らが主力として勝てたからね。それは大きいですよ。本当の意味で、鹿島アントラーズというチームの選手になれたのかな、と」 もちろん、浮かれてばかりもいられない。通算18冠目はチャンピオンシップという短期決戦を制して手にしたものであり、年間総合順位では3位に甘んじている。1位の浦和とは勝ち点で15も、一発勝負の準決勝で撃破した2位の川崎フロンターレとも13も離されている点を、昌子は忘れていない 「年間王者になったことはもちろん嬉しいけど、今日みたいな試合を1年間やらないと。年間を通して強かった浦和さんや川崎さんに、追いつかないといけない」 開催国代表として臨む8日開幕のクラブワールドカップ、ベスト8に残っている天皇杯、そして再び1ステージ制のもとで開催される来シーズンのJ1での連覇達成へ。一瞬の喜びに浸った痛快無比な下剋上は、常勝軍団の歴史を再び紡ぐターニングポイントになるはずだ。 (文責・藤江直人/スポーツライター)