少年たちの心のゆらぎをリアルな感触で描く ドラマ「スメルズ ライク グリーン スピリット」が共感を呼ぶ理由
2011年から2012年まで「コミックBe」で連載された永井三郎による人気コミックを原作にしたドラマシリーズ「スメルズ ライク グリーン スピリット」がFODにて独占見放題配信中だ。本記事では10年以上の時を経て実写ドラマ化された同作のみどころを紹介する。 【写真】儚くて美しいキス直前の2人「スメルズ ライク グリーン スピリット」 本作は平成の閉鎖的な田舎を舞台に、少年たちのひと夏の成長を描いた青春ストーリー。主人公は“髪が長い”という理由で同級生からいじめられている三島フトシ。彼のことをいじめているグループのリーダー、桐野マコトはあるときから三島と心の距離が縮まるようになる。 そんなことは知らずに桐野と同じバスケ部員の夢野太郎は何かと三島を目の敵にし、また東京から転任してきた訳ありの様子の社会科教師・柳田も三島を妙な目で見る。三島と彼を取り巻く者たちは何もない田舎町で暑い夏を駆け抜けていく。 ■“心の揺らぎ”を胸に秘めた四者四様の生き様と悩みとは? 本作にはさまざまなキャラクターが登場するが、その誰もが “心の揺らぎ”を胸に秘めている。三島はクラスから浮いていていじめられていても、うちでこっそりと母親の口紅を塗ったり服を着たりすることを心のよりどころとしている。男性の先生・江戸川のことが好きだが、だからといって女性になりたいかと言われれば、疑問が浮かぶ。 三島のイジメグループのリーダーである桐野は、三島が落とした口紅を隠し持っていて、自らの唇に塗ろうとしているところを三島に見つかってしまう。それをきっかけに、密かに三島と交流を持ち、2人きりでいる屋上では自分のことを「あたし」と言って心を開いていく。桐野も江戸川先生のことが好きだが、かつて女の子と付き合って行為に至ったときに吐いてしまった苦い経験を持っている。 桐野と同じバスケ部員で三島をいじめる夢野は、いじめながらもやけに三島のことを気にしてばかりで、まるで好きな子に対してキツく当たってしまう小学生のよう。それでいて三島のピンチには血相を変えて駆けつけ、その後に三島に危険がないかと心配する優しさも垣間見せる。彼が三島に惹かれているのは誰が見ても明らかだが、夢野は葛藤を抱えていた。 また、教師の柳田は自分を欺いて生きることに限界を感じており、行き詰まった彼は自暴自棄になっていく。 このように四者四様の生き様と悩みがあり、感情移入して見入ってしまうが、必ずしもそれぞれが自分自身の境遇と重なるわけではない。しかし、自分が何者であるか自分自身でも掴めずゆらぎがあることを不安に思う気持ち、大勢の輪からはみ出してしまう疎外感や焦燥感は誰しも経験があるのではないだろうか。そんな多くの方が身につまされる思いがこのドラマには詰まっている。 さらに辛く重いトーンばかりではなく、とぼけた笑いも交えて描かれる。シリアスな場面の直後にはマヌケなことが起こってしまうというのは、人生そのものという気がしてならない。少年たちの心のゆらぎを普遍性を持ったリアルな感触で描き、見るものの共感を呼ぶ本ドラマ、ぜひチェックして欲しい。 ■構成・文=牧島史佳