「臨床犯罪学者 火村英生の推理 2019　ＡＢＣキラー」(ホームドラマチャンネル)

人気推理作家・有栖川有栖の代表作「火村英生シリーズ」を、ツボを抑えたキャスティングで実写ドラマ化した「臨床犯罪学者 火村英生の推理」(2016年放送)。鋭い観察力と卓越した推理力で難事件を解決に導く臨床犯罪学者・火村英生を斎藤工、火村を支えるパートナーの推理作家・有栖川有栖を窪田正孝が演じ、2人の絶妙なバディ感が多くの視聴者を虜にした。 放送終了後も約1万通のお便りが寄せられたり、ファンが自主的に上映会を開催したりと根強い人気を誇り、その声に応えて2019年9月にスペシャルドラマ「臨床犯罪学者 火村英生の推理 2019　ABCキラー編」が放送された。 出演はもちろん、斎藤と窪田だ。ドラマの冒頭では物思いに沈む火村と、火村と因縁のある過激派集団「シャングリラ十字軍」の指導者・諸星沙奈江(長谷川京子)との前作での回想シーンが映し出される。そこへ「ごめんください！」と関西弁の声が響き、場面は有栖川と、火村が暮らす下宿の大家・篠宮時絵(夏木マリ)とのやり取りに移る。2人の活躍を待ち望んでいたファンにとっては、「火村と有栖川が帰ってきた！」と心が踊る冒頭と言えるだろう。 今回は「ABCキラー」とのサブタイトルが示すように、かのアガサ・クリスティの名作「ABC殺人事件」を模した連続殺人事件が発生する。事件が起こった地名と被害者のイニシャルがアルファベット順に並んでいくというもので、火村と有栖川は警察の依頼を受けて捜査に協力することになる。 本作でも2人のコンビネーションは健在だ。事件の捜査会議では、「ABCキラー」を名乗る者から事件が起こった兵庫県警、大阪県警、そして火村を名指しした"挑戦状"が届いたことが明らかにされる。すかさず火村が「お前の名前がなくて寂しいか？」と言えば、有栖川も間髪入れずに「何言うてんねんお前は」と切り返す。さらに事件のヒントとなり得る小説「ABC殺人事件」の説明を火村から振られた有栖川の慌てぶりは、もう"可愛い"としか言いようがない。 それぞれの演技も絶妙で、3人目の被害者の元妻で有栖川のファンだというパーカッション奏者・花井唯子(高橋メアリージュン)の家を訪れた時、何かヒントを見つけたかのような火村の視線が気になってしまうし、同行した刑事から花井のSNSを教えられた有栖川の浮かれようにクスッと笑ってしまったりもする。 そして4人目の被害者が出た時、現場検証にあたった火村の中で絡み合っていた糸が解きほぐされ、ついにこの言葉を口にする。「この犯罪は美しくない」と。 連ドラ版からのファンであってもそうでなくとも、2人のバディ感を存分に堪能でき、もっと2人の活躍が見たくなる。本作はそんなドラマに仕上がっている。果たして「ABCキラー」の正体は誰なのか、火村と因縁のあるシャングリラ十字軍はこの事件にどう絡んでいるのか？ 火村と有栖川の活躍を楽しみながら、ぜひラストまで見てほしい。最後に振る舞われる篠宮時絵の手料理は絶品至極だ。 文＝堀慎二郎