日本の実状が裏付けに? 「MMT」はなぜ論争を巻き起こすか
「MMT」が論争になる3つの理由
しかし、その割にこのMMTは「魔法」として切り捨てられず、大きな論争を呼んでいます。既述のとおり国会で話題になったほか、経済誌のみならず、最近は一般紙でも取り扱われています。それでは、なぜMMTが話題になるのでしょうか。筆者は(1)失われた20年の反省、(2)リーマンショック以降に露呈した金融緩和の限界、(3)異例とも言える公的債務を抱えている日本の長期金利が一向に上昇しない、この3つが背景にあると考えます。 順に解説していきましょう。まず(1)については、政府債務が大きいからという理由で財政政策が消極的になった結果、経済成長率が加速せず、賃金・物価が下がるというデフレ的状況を生み出し、却って財政を悪くしたという考え方が「失われた20年」の反省として共有されつつあることです。これは安倍首相が2016年に消費増税を先送りした際に「増税で景気が悪くなったら元も子もない」と説明したことで明らかな通り、既に実際の政策に採用されつつある考え方です。 次に(2)については、長年「ゼロ金利」(2016年からは「マイナス金利」)政策を採用している日本では、政策金利を引き下げて景気を刺激する伝統的な緩和手段がなくなっているため、景気を刺激しようとした場合、金融緩和ではなく財政出動が有効との意見に傾きつつあることが大きいです。こうした潮流の変化は、6月に福岡市で開かれた20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で「財政政策は、機動的に実施し、成長に配慮したものとすべき」という声明が盛り込まれたこととも共通しています。先進各国の経済環境が日本と似てきたこともあり、最近は世界的な流れとして財政政策の有効性が再認識されています。民間の経済活動が縮小し、デフレ気味の時こそ政府が公共投資や社会保障費を拡大するという経済の基本が再評価されている印象です。 そして最も重要なのは(3)でしょう。伝統的な教科書の教えでは、政府債務が膨らむと人々が財政破綻を意識するため、金利が上昇したり、インフレになったりするのですが、巨額の政府債務を抱える日本は、物価が上がらず、長期金利に至ってはマイナスです。長期金利がマイナスなのは、国債の買い需要に対して発行が少な過ぎる結果なので「もしかすると、政府の財政政策が消極的過ぎることを意味しているのでは?」という発想に繋がります。こうした日本の実例は、MMTの「政府がどんなに借金しても財政は破綻しない」、「財政赤字や債務残高など気にせず、目の前の景気対策に集中するべき」という主張を裏付けているようにも思えます。 以上、MMTの(かなり荒削りの)大枠とそれが論争を巻き起こす背景を整理しました。現段階でMMTに基づいた経済政策が採用される可能性は低そうですが、MMTが一部有識者を含め一定の支持を得ていることは事実です。「財政再建が急務」としてきた、これまでの考え方が正しかったのかを再考する動きが広がっているように感じられます。
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