高品質のワインを世界へ。「サントリー登美の丘ワイナリー」の新たなチャレンジに迫る/
日本ワインの人気は近年高くなるばかり。その中でも、老舗として日本ワインの発展に尽くしてきたのが「サントリー登美の丘ワイナリー」だ。今年は世界的に栄誉ある賞を受賞、進化を続けている。そしてまた、取り組んでいる新たな”挑戦”について、栽培技師長の大山弘平氏に聞いた 【写真】栄誉ある賞を受賞した「SUNTRY FROM FARM 登美 甲州 2022」
近年、日本ワインの発展と進化は著しく、日本各地から個性豊かなワインが誕生している。ワイナリーの軒数も400を超え、まさに百花繚乱。その中で、世界基準のワイン造りで高品質のワインを世に送りだしているのが「サントリー登美の丘ワイナリー」(以下、「登美の丘ワイナリー」)だ。 その実力を証明したのが、今年6月に行われた「デキャンタ―・ワールド・ワイン・アワード 2024」において、「SUNTRY FROM FARM 登美 甲州 2022」が最高位の「Best in Show」を受賞したことだった。これは、英国のワイン誌『デキャンタ―』が主催する権威あるワインコンペティションで、「Best in Show」とは18,000点以上のワインの中から50点のみに与えられた”世界最高峰”を意味する。その味わいはリッチでエレガント。果実味のふくよかさに満ちている。甲州らしい白桃の香りと独特のトロピカルフルーツのニュアンスを併せ持ち、繊細な酸味とのバランスもパーフェクト。 栽培技師長の大山弘平氏はこう語る。 「受賞を聞いた時は本当にうれしく、『やった!』と思いました(笑)。甲州はクリーンで爽やかな味わいが特徴ですが、海外では『味が薄い』と評されることもありましたので、世界で認められたことは大きな自信と励みになりました。ただ、ここで立ち止まってはいけない。より高品質のワインを目指したいと、気が引き締まりました」。
実は、この栄冠を手にするまでには、長い物語があった。「登美の丘ワイナリー」の創業は1909年(明治42)年。鉄道参議官の小山新助が、「日本でワインを造る」という夢を抱き、当時「登美村」と呼ばれていた風光明媚なこの地に「登美農園」を開いたことに始まる。だが、志半ばで経営に行き詰まり、彼の夢は潰えてしまった。その夢を引き継いだのが、「寿屋」(サントリーの前身)の当主であった鳥井信治郎だった。彼は「登美農園」を譲り受け、「寿屋山梨農場」として新たなスタートを切った。以後「登美の丘ワイナリー」は、100年以上の長きにわたり、多くの人々がその夢を繋ぎながら、「日本が世界に誇れるワインを」と、たゆまぬ努力を続けてきたのだ。 そして今、「登美の丘ワイナリー」では、新たな挑戦を始めている。それが、気候変動に対応できる栽培方法の「副梢栽培」だ。これは、芽吹いたブドウの新梢(一番果)の先端をあえて切除し、そのあとに芽吹く脇芽(二番果)を育てるというもの。盆地である山梨県では、温暖化による猛暑、特にブドウが成熟期から収穫期を迎える時期の夜温の上昇が問題となっている。従来の栽培では赤ワイン用ブドウの着色不良や酸の低下に影響を及ぼしてしまうのだ。そこで、「登美の丘ワイナリー」では、気候変動の研究に取り組む山梨大学と連携し、2021年からメルロ500本で「副梢栽培」を行ったところ、約一カ月収穫を遅くすることができたという。 「通常、ブドウは4月頃に芽吹き、これが育って9月頃に収穫期を迎えますが、今の気象状況では早く熟しすぎてしまう。副梢栽培を行うことによって、ブドウの成熟開始時期を7月中旬から気温の下がり始める9月上旬ごろまであえて遅らせることで、ブドウは涼しくなる時期にゆっくりと酸を湛えて育つようになります。11月中旬頃には理想的なブドウが収穫できるようになるのです」と大山氏は語る。その成果は大きく、現在ではメルロやシャルドネなど、上質のブドウが収穫できるようになったという。「SUNTORY FROM FARM ワインのみらい 登美の丘ワイナリー シャルドネ 秋風の成熟 2022 副梢栽培ぶどう使用」は、その成果が表れた1本で、果実の中に溶け込んだ酸味が美しい。 「登美の丘ワイナリー」のワインの評価は高く、「上品」と称されることが多いが、何よりも大きな魅力は、つくり手の情熱や思いがその味わいから静かに伝わってくることだろう。おそらくは、ワインの奥に隠されているものが、飲む人を感動させるに違いない。 問合せ先 サントリー登美の丘ワイナリー TEL: 0551-28-7311 BY KIMIKO ANZAI