PFAS規制の動きに対する半導体材料メーカーの動き
有機フッ素化合物(PFAS)の規制を巡り、国内外でさまざまな議論がなされている。1万種類を超える物質があるとされるPFASは、耐薬品性や難燃性、潤滑性、電気絶縁性など多くの特性を持ち、半導体やエレクトロニクス関連でも幅広く使用されている。議論が進む規制に対し、半導体産業に関わる多くの企業が対策を講じ始めている。 PFASは炭素とフッ素などが結合した有機化合物の総称。ほとんど分解されることなく自然界に蓄積される特性があり、「永遠の化学物質」とも呼ばれる。PFASの中で毒性が問題視されているのが「PFOS」や「PFOA」。発がん性が指摘されており、特にPFOAは国際がん研究機関IARCが発がん性を分類する4段階のうち、最も高いものに分類している。国内の米軍基地でPFOSやPFOAを含む泡消火剤が漏出した事例が近年明らかとなり、地域住民に不安が広がっていた。国内ではPFOSは2010年、PFOAは21年に製造・輸入が原則禁じられた。 水道事業者の水質検査結果を発表 環境省と国土交通省は11月末、PFOSとPFOAについて、全国の水道事業者が実施した水質検査結果をとりまとめた。この結果によると、20年度から23年度にかけ、全国14カ所で国の暫定目標を一時的に上回っていたという。24年度については9月末時点で、暫定目標値を上回る水道事業者は無かった。目標値を超えた水道事業者は年々減少傾向にある。水源の変更や活性炭による浄化システムの稼働、活性炭の入れ替えを行うなど、対策を進めている。 欧州ではPFAS全面規制案も 健康への悪影響が指摘されるPFASだが、一部を除き健康への悪影響は不明な点も多い。科学的な根拠は十分ではないものの、欧米では「予防原則」に基づく規制の議論が進んでいる。 特に欧州は古くから環境配慮を前提とする化学物質規制に力を入れており、PFAS規制にも影響力を持つ。06年からは重量比で0.1%以上のPFOSを含む製品や部品をEU域内で販売・輸入・使用することが禁止されている。フォトレジスト、反射防止膜、金属めっき、航空機用作動油は適用外とされている。それ以降もREACH規制の対象物リストにPFOA関連物質の使用制限が追加されるなど、規制強化が進む。 欧州化学品庁(ECHA)は23年2月に約1万種類のPFASを全面的に規制対象とする規制案を発表。この規制案を巡っては、日本の化学メーカーも意見書をまとめるなどし、議論が続いている。 半導体材料各社、PFASフリー製品や代替製品を開発 これらの動きに対し、PFASを含まない製品や代替製品の開発に注力する企業も増えている。東レは今年5月、先端半導体向けPFASフリーのモールド離型フィルムを実用化した。同製品はPFASを含まない材料で構成され、モールド工程でみられる課題だった金型汚れを5分の1以下に抑制。最先端の半導体製造における稼働率向上に貢献する。 DICはPFASフリー界面活性剤「MEGAFACE EFSシリーズ」を開発した。フッ素系界面活性剤は各種精密コーティング材料の表面張力を抑え、高度に平滑な薄膜を形成する添加剤として使用される。同社が開発した製品はPFASを使わずにPFAS含有の従来製品と同等以上の高い表面張力低下能を有し、優れた均一塗布成を実現した。 レゾナックはフッ素系コーティング剤を代替できる撥水撥油コーティング剤を提案している。同製品は塗膜をUV硬化させ形成。各種機材に硬化塗膜を形成することができ、電子材料用途としての利活用を見据えている。 欧州でのPFAS規制については、現在進行形で議論が続いており今後も注視していく必要がある。その一方、PFASフリー製品や代替製品開発の動きも加速すると見込まれる。さまざまな規制を契機に課題を解決するため、新たな技術が生まれることは多い。PFAS規制についても産業の成長を妨げることなく、新たな技術により課題解決につながることを期待したい。
電波新聞社