「好き勝手なことばかり書いたけど、誰も文句を言ってこない。その理由は……」デビュー30年、文豪レスラーTAJIRIが明かした業界の虚実、プロレスに学ぶ処世術
今でも現役でプロレスを続けられる理由
──アメリカのプロレスでは役割分担が明確で、その中で求められる以上の結果を出し続けないと生き残れない、と本書にありました。それはすごいプレッシャーだと思うのですが、どう克服していたのですか。 TAJIRI こうなればいいなと思うものをイメージトレーニングすることですね。例えば試合後にプロデューサーから「今日の試合はよかった」と褒められる場面なんか。これを映画を見ているように鮮明にイメージできればだいたい上手くいきましたね。実はこの方法は大学生の時に読んだ潜在意識活用の本で知って、レスラーになれたのもこれのおかげのような気がしています。 大学時代に2回メキシコに行って、アレナ・メヒコという向こうで最大の会場のリングを触って手に感触を焼き付けてきました。あとはメキシコって排気ガスとメタンガスと石灰が混じり合った臭いがして、帰国してからも町を歩いている時も排気ガスの臭いを嗅ぐ度にメキシコで活躍する自分をイメージしたし、毎晩「必ずこのリングに上がる」とリングに上がっている自分を、手の感触を思い出しながら念じ続けていました。そしたら本当に実現したんです。ただ、こういう感覚を使う能力は年齢が上がると減退していくから、やるなら早いほうがいいと思います。そういった願望実現のヒントも、本著で詳しく書いていますよ。 ── 読者の中には現状に不満を感じているけど、なかなか動き出せない人もいます。何かアドバイスをお願いできますか。 TAJIRI 動き出せないのは、不満があるけど今の安定も捨てきれないということだと思うんです。でも、現状に満足出来ていないのは、その安定もたいしたことじゃないはず。そんなものの中で生きていくことほどつまらないものはないと思うんです。そもそも楽しくないことに対してエネルギーが発揮できるわけがない。だったら、楽しいと感じられるように環境でもなんでも変えるべきだと思います。僕がこの年まで現役でプロレスをしていられるのは、いやなことを自分の周りから捨てていっているからかもしれない。 あとは開き直ることですね。今の時代、こんなことをするとこう思われるんじゃないか、こう言われるのではないかと常にビビっているじゃないですか。でも、そんなのはクソですよ。だいたい相手を悪く言うのってほぼすべてはジェラシーが元ですから。それだけ自分は羨ましがられる存在なのか、と自信を持って好き勝手にやればいいと思います。 ただ、これだけ好き勝手なことばかり書けば、誰かが文句を言ってくるかと思ったんですけど、誰も何も言ってこない。きっと、ジェラシーの対象じゃないんでしょうね(笑) でも、それならそれで、もっと好きなことができるから、僕はそれでいいんです。
平原 悟(ライター)