「好き勝手なことばかり書いたけど、誰も文句を言ってこない。その理由は……」デビュー30年、文豪レスラーTAJIRIが明かした業界の虚実、プロレスに学ぶ処世術
アドリブ力、適応力、表現力の全てが不可欠
── ショー(興行)の流れも事前にある程度決まっていると言うことですか。 TAJIRI ある程度どころか100%。秒単位で決められています。仮に試合前のマイクパフォーマンスが盛り上がって予定時間を越えてしまうと、試合直前にこの部分は5分の予定だったけど1分に収めてくれ、と言われたりする。それに従いながら、制作者の意図を表現できないといけない。向こうでは、アドリブ力、適応力、表現力の全てが不可欠で一つでも欠けているとお金は稼げません。 プロレスも勝ち負けはありますが、勝つことよりも大切なのはお客さんが愉しんでくれるかどうか。大切なのはお客さんが愉しんでくれるかどうか。そして、次回もまた会場に行きたいと思ってくれるかどうか。それが勝負なんです。毎回同じ試合をしているレスラーもこの業界にはいますが、同じ映画を何回もお金を払って見せられても嬉しくないじゃないですか。アメリカでは選手も制作側もお客が飽きないように常に変化を出すように工夫をしています。そこは必死ですよ。 ──アメリカのプロレスラーはすごく個性的な選手も多いですよね。どうすれば自分の性を出せるのでしょう。 TAJIRI まずは自分が何ものであるかを徹底的に分析することが大事でしょうね。レスラーに多いのが、黄レンジャーなのに赤レンジャーになりたがる者。赤レンジャーになりたい気持ちもわかるんですけど、黄レンジャーは黄レンジャーじゃないですか。それは仕方ないし、そこから外れたことをすると、自分の持っている個性を逆に殺すことになってしまうのではないかと。しかも、年に一度くらいは黄レンジャーが主役の回もあるから、そこでとことん輝けばいいと思うんですよ。それが出来る黄レンジャーは、赤レンジャーよりもプロとして活躍出来る期間が長いような気がしますよ。 ── TAJIRIさんはアメリカでヒールとして人気を博しましたが、ベビーフェイスもやっていました。自分ではどちらが合っていたと思いますか。 TAJIRI 自分としては圧倒的に悪者です。元々の自分の性格に近いからだと思いますが、お客さんの反応も一番よかったですから。リングに上がるために花道を歩いていると本気で罵倒されました。普通に生きていて、ここまで憎まれることは一生ないだろうと思うくらい汚い言葉で罵られましたら。それを毎日、何千人から浴びせ掛けられる。でも、そうするとこちらももっと怒らせたくなる。どんどん煽ると更にヒートアップする。それが快感でした。 ── 海外の団体に初めて行った時は、馴染むのに苦労しませんでしたか。 TAJIRI 最初は大変でした。まだ若かったし組織に馴染もうと一生懸命いい奴を演じていたかもしれません。でも元々人見知りだし、疲れるのでやめました。それで嫌われてもいいと思ったんですが、結果は逆。あいつは物静かな奴という認識が定着するとそれはそれでうまく付きあえました。 しかも、たまにおかしなことを言うと、余計に目立って受けるから。そういうときって人気者になったりするじゃないですか。正直言えば人見知りの性格は今も変わりません。でも、人見知りって、相手にこう思われたらいやだなという気持ちが根底にあって、うまく付き合えないわけじゃないですか。それを取っ払う思考回路が完成して以降は、なにごとも楽になりました。