映画館でのライブ体験:BABYMETALの新たな挑戦『BABYMETAL LEGEND - 43 THE MOVIE』
2010年のデビュー以来、世界を席巻し続けているメタルダンスユニットBABYMETAL。2023年4月にSU-METAL(Vocal/Dance)、MOAMETAL(Scream/Dance)に新たなメンバーMOMOMETAL(Scream/Dance)を加え、新生BABYMETALとして新たなステージに突入した彼女たちが、2024年8月23日に初のライブムービーを公開した。それが日本を含め25か国で全98公演を行った最大規模のワールドツアー「BABYMETAL WORLD TOUR 2023 - 2024」の最終章にして、初の沖縄公演「TOUR FINAL IN JAPAN LEGEND - 43」を完全映画化した『BABYMETAL LEGEND - 43 THE MOVIE』(公開中)だ。 【写真を見る】神々しく登場するBABYMETAL、1曲目の「BABYMETAL DEATH」から会場は大盛り上がり ■世界的なトレンド「映画館でのライブ体験」 まず初めに強調しておきたいことがある。それは、本作が単なる「ファン向けのコンサートフィルム」ではないということだ。 現在、音楽シーンにおいてコンサートの映画化は一つのトレンドとなりつつある。2023年公開のテイラー・スウィフトのコンサート映画『テイラー・スウィフト: THE ERAS TOUR』(23)の前売券は発売初日で3700万ドルを売り上げ、2015年の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)が持っていた2000万ドルの記録を大幅に上回ったというニュースは記憶に新しい。そして、テイラーに続くようにあのビヨンセも同年12月に新しいコンサートフィルム『Renaissance: A Film by Beyonce』(23)を劇場公開。さらに今年は、トーキング・ヘッズの演奏を収めた音楽ライブ映画の金字塔『ストップ・メイキング・センス』(84)がA24の4Kレストアによって復活公開。これはコンサート映画がいま新たなピークを迎えつつあることの象徴とも言える出来事だ。なお現在もこの流れは止まらず、8月8日からは韓国のBLACKPINKによるワールドツアーを収めた映画『BLACKPINK WORLD TOUR [BORN PINK] IN CINEMAS』(24)がロードショーされている。 実は、日本の映画館においては、すでにコロナ禍の時点でアイドルグループのコンサート映画が多数上映され、そのたびに劇場内の年齢層がグッと若くなるという現象があったのだが、ハリウッドの脚本家ストライキを更なるきっかけとして、この流れは世界的なトレンドとなりつつあるのかもしれない。 本作『BABYMETAL LEGEND - 43 THE MOVIE』は、そんな世界的なトレンドに対する「日本を代表するライブアクト・BABYMETALからの返答」とも言える内容となっている。 ■ギミックなし、パフォーマンスで魅せる「ライブ体験」 まずなによりも驚かされたのは、本作があまりにもストレートな「ライブ作品」になっていたことだ。事前に発表されていた作品情報からもわかっていたことではあるのだが、それにしても本作の竹を割ったようなノンギミックさには、流石に度肝を抜かれた。曲間が多少間引かれている点以外は、ほぼ「ライブそのまんま」という印象で、「コンサートフィルム鑑賞」というよりは「映画館でライブを体験している」といった感覚だった。 そこにあるのは、25か国全98公演を駆け抜けてきたアーティストとバンドだけが持つ、充実の空気感と鉄壁の演奏。一流のスタッフが撮影・録音したそれらの記録を、生々しく再現するのは、数々の名作映画を上映してきた映画館のサウンドシステムだ。ライブ並みの大音響と、ライブ会場では味わえないほどクリアな音質、ダイナミックなカメラワークは、「映画館でのライブ体験」だからこそ可能となる圧倒的な体験を作り上げる。 ■ライブの臨場感を再現するのに最適な環境である映画館 BABYMETALのライブではおなじみとなっているドローン撮影による映像を筆頭に、これはまるでBABYMETALと「神バンド」の演奏をステージ上で間近に目撃しているような感覚だ。また、今回の試写ではBABYMETAL初となる5.1chサラウンド版を体験することができたのだが、あくまで演奏は前方ステージを中心とした組み立てで、リアスピーカーはライブ会場の臨場感の再現に使われているようだと感じられた。この実直なミキシングは「ライブの再現」として間違いなく大成功を収めている。本作はDolby Atmos版、そしてDolby Cinema版でも公開されており、ぜひともそちらも体験したいものだ。 いずれのバージョンで鑑賞にせよ、SU-METAL、MOAMETAL、MOMOMETALの3人と神バンドのパフォーマンスから伝わる情熱とエネルギー。オーディエンスがまるでの儀式のように一体となって盛り上がる瞬間の臨場感は、たとえあなたがBABYMETALファンでなかったとしても、その心を揺さぶるだろう。そして、ライブBD/DVDでは得られないこの衝撃は、映画館の大画面・大音響が、この2024年においても格別の環境であることをなにより雄弁に物語っているとも感じられた。音楽と映画、それぞれの文化が持つ魅力を再発見できる作品と言えるかもしれない。 トーキング・ヘッズ『ストップ・メイキング・センス』から続くコンサートフィルムの伝統を、テイラー・スウィフト、ビヨンセ、そしてBABYMETALは受け継ぎ、この現代に再提示する。それは従来型の劇映画ではないし、チケット値段を含む興行システムもやや特殊だ。しかし、BABYMETALファンは言わずもがな、映画ファンにこそぜひ一度この映画を観てほしい。きっと、BABYMETALの3人、そして映画と映画館の新たな魅力を発見できるはずだ。 文/照沼健太
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