20人に1人が精神疾患! 現代社会の生きづらさは人間の「自己家畜化」が生み出した?
「自己家畜化」という言葉をご存じだろうか。これは生物が進化の過程でより群れやすく、より協力しやすく、より人懐こくなるような性質に変わっていく現象を指す。 【書影】『人間はどこまで家畜か現代人の精神構造』 イヌやネコがその代表例だが、進化生物学の研究では人間も自己家畜化をしており、そのおかげで今日のような高度な文明社会を築くことができたという。 しかし、高度に複雑化した現代社会において、すべての人間がその変化に適応できているわけではない。厚生労働省の調査では、今や20人に1人がなんらかの精神疾患の治療を受けているという。 この状況をどうとらえるべきか、精神科医であり『人間はどこまで家畜か 現代人の精神構造』の著者である、熊代亨(くましろ・とおる)氏に話を聞いた。 * * * ――今回、自己家畜化というテーマで本を執筆された背景を教えてください。 熊代 私は精神科医なので、普段から何かしらの生きづらさを抱えた方々から話を聞く機会が多いです。感情の起伏が激しい方や、中には他人に手を上げてしまうような方もいらっしゃいます。 しかし、そういった今の社会規範から外れた精神状態の人でも、かつては異常とはみなされなかった時代があったわけです。それは、個人の特性にとどまる問題なのか、社会のほうに問題があるのか。「自己家畜化」というキーワードで、この問題をうまく整理できるのではないかと思ったんです。 ――自己家畜化のいい点/悪い点はなんでしょうか。 熊代 「生物学的な自己家畜化」と「文化的な自己家畜化」に分けて整理しましょう。 まず、人間は生物学的進化の過程で、ストレス反応をつかさどる神経内分泌系が縮小し、不安や攻撃性を減らすセロトニンの量が増えました。 その結果、争わずに協力する習性を身につけてきたといえます。この生物学的自己家畜化については、悪いことではないと思います。 さらに、人間は礼儀やマナー、個人主義や社会契約、資本主義などを次々に生み出し、そうした社会規範に適応していくことで現代の安全で便利な生活をも手に入れました。しかし、こうした文化的自己家畜化に関しては、誰もがその変化についていけるわけではありませんでした。精神疾患の増大もその一例かと思います。 もっと卑近な例を挙げれば、今の社会ではタイパやコスパが重視され、いつも急き立てられているように生きている側面があるのは否めません。精神的に余裕がない生活を強いている点においては、文化的自己家畜化が私たちを圧迫している部分があるのではないかと思います。