シルクロードの地を行くウズベキスタン鉄道の列車＝ウズベキスタン（筆者撮影）

大学生の長男がウズベキスタンに留学しているので、夏休みを使って訪ねることにした。 訪問団は私、妻、次男、三男の四人である。首都のタシケント国際空港に着いたのは八月二十六日、現地時間で夜の八時すぎだった。 空港を出たところの路上でひさびさに長男と会う。長男はさっそく、「客引きのタクシーは高いから乗っちゃだめ。乗るならスマホのアプリで呼び出すのがいちばん」などと講義を始める。顔つきが少しウズベク人めいただろうか。 翌朝、アプリでタクシーを呼び出して鉄道の駅に行き、サマルカンドに向かって出発した。南西に約二五〇キロ。サマルカンドはこの国で、というより、中央アジアで最も古い都市のひとつである。そのイスラムの建築群の美しさは有名で、ユネスコの世界遺産にも登録されている。私もかねて見たかったのだ。 乗車したのは〇九時〇〇分発、特急シャルク七一〇号。シャルク（Sharq）はウズベク語で「東方」の意の由。乗客はかなり多かったけれども、私たちは前もって長男に座席の予約を頼んでいたので、難なく座ることができた。 乗り心地は、良好だった。揺れは少ないし、スピードは出ているし、エアコンはよく効いている。ワイヤレスイヤホンを使ってスマホで動画を見る人が多いのは日本と同様の光景だ。気がつけば次男と三男が目を閉じてすやすや寝てしまっていたのは、あるいは昨日のフライトの疲れからか。私は車窓へ目を転じ、外の風景を見た。 風景は古来、シルクロードの旅人たちが見たものである。 水（みず）っ気（け）がない。だが地平線まで砂漠である、と言っては言いすぎだろう。まばらに低木や草が生えているからだ。 丘と丘のあいだに沈むようにして何軒かの家が寄り合っているのもしばしば見た。もっとも、その家はみな簡便なもので、先祖の代からそこにあるという感じはしない。次に見るときにはもう蜃気楼（しんきろう）のように消えているのではないかと思わせるような無常感。もちろんこれは、私のほうに前もってウズベク人は元来遊牧系だという知識があっての空想なので、実際はどうかわからないけれども。 列車は途中のグリスタン（Guliston）駅に停車し、少しして発車した。ときどき白っぽい制服を着た男性がコーヒーやパンのお盆を持って来る。