1万人の高齢者を診た医師が指南、治療よりも薬を飲むよりも“効く”「老いない」生き方
対話、診療で見えてきた、人それぞれの“老いない生き方”
舛森先生が診察する8割以上は70歳を過ぎた患者。何かしらの症状を抱えつつも、そのパワーに圧倒されることも多く、医師の見地を超えて「へえ!」「なるほど!」と思うこともしばしば。実際の対話から生まれた、無理せず、健やかに生きることへのヒントをご紹介。 老いない生き方(1):運動よりもおしゃべりが若さの秘訣 おしゃべり大好き80代女性Wさんが教えてくれたこと 「スポーツクラブへまじめに通ってひとりで黙々と運動するよりも、その場に居合わせた方とおしゃべりをする方のほうが介護リスクが低くなったという研究報告があるんです」と舛森先生。 主治医として受け持つ80代の女性患者について興味深いエピソードを話してくれた。 女性は地元で開かれている運動教室に参加するものの、膝が悪いために運動がほとんどできない。しかし教室へ出かけ、手伝いをしたりおしゃべりをするのが何よりも楽しみで、友達と積極的に出かけるアクティブな人だ。 このような一見なんの健康効果ももたらしていないような行動が、実は元気の源だと舛森先生は語る。 「社会参加や人との接点が少ないと、認知症発症のリスクが50%も上がるというデータもあります。運動しよう!と思い詰めず、誰かと出かけておしゃべりをする程度の感覚でスポーツクラブへ通うことでも、結果的に運動したことと同じになるんです。おしゃべりは万能薬ですね」
老いない生き方(2):「禁煙」「禁酒」「禁甘」より人生を優先する 酒屋の3代目男性Kさんが教えてくれたこと 身体を壊したことで医師からお酒やタバコ、甘い物などを禁止されることがあるが、舛森先生は健康のためとなんでもかんでも禁じてしまうと、生きる楽しみまで奪ってしまうと指摘。 「まずは健康や病院との距離感、お薬との付き合い方を知ってもらった上で、『自分はこれでいいんだ』という幸福感があるかどうか、が大事なんです。『健康のためなら死んでもいい』なんて冗談もありますが、自分が楽しい、幸福だと感じることを支えているのが健康です」 身体に悪いところがない健康な状態だけが必ずしも幸福というわけではなく、さまざまな状況を抱えながら幸せに生きている人もいる。 「糖尿病の男性患者さんで毎日の晩酌を楽しみにしている酒屋さんがいます。仕事柄お酒が大好きです。ですから、禁酒させるのではなく、お酒を楽しみながら元気に仕事を続けられるようサポートしています。 本人が人生で何を大切にしているのかを酌み取って治療することも大切。特定のものを禁止することで身体の一部が悪くなることは防げるかもしれません。でも、それで人生の幸福度を損なってしまっては、元も子もない。 健康になろうと頑張りすぎてつらい、と感じたら立ち止まって考えて。とはいえ過度なことは厳禁!かかりつけ医に相談してみてください」 老いない生き方(3):健康習慣は頑張るよりも楽しむが勝ち 運動嫌いな70代女性Iさんが教えてくれたこと 運動が健康にいいのはわかっている、だけどなかなか続かない……という人は多い。舛森先生の患者に、「運動は好きじゃない」と言いつつ、夫婦でパークゴルフを週3楽しむ女性がいる。これも立派な「運動習慣」だ。 「医学を6年学んで、運動が健康にいいとわかっている僕でも、運動習慣を身につけるのは難しい(笑)。毎朝ウォーキング、ジム通いなどと理想ばかり追わず、大事なのは『ちょっとでもやる』こと。 好きなことを楽しんで、結果的に“いつの間にか運動になっている”ことが理想です」