週刊・新聞レビュー「謝りつづけるサザンの桑田さん、その必要はあるのか?」 徳山喜雄(新聞記者)
波紋を広げるパフォーマンス
サザンオールスターズの桑田佳祐さん(58)が、ライブで「反日的」な振る舞いをしたとする抗議に対し、謝罪を繰り返している。 昨年大晦日の横浜での年越しライブで、桑田さんが披露したパフォーマンスが波紋を大きく広げた。昨秋に受章した紫綬褒章をポケットから取り出して観客にみせ、オークションにかけるまねをした。 「みなさんのおかげでねえー、まず5000円からいきましょう。ほしい人、8800円で……」 しかし、一部の人はこれをジョークと受けとらず、ネットなどで「皇室に対する冒とくだ」「反日的である」と激しく抗議をはじめた。 ライブにはNHK紅白歌合戦の中継もはいり、ちょび髭をつけた桑田さんが31年ぶりに出演。「ピースとハイライト」を歌った。 「都合のいい大義名分で争い仕掛けて」「裸の王様が牛耳る夜は……狂気」という歌詞が響いた。 これにも視聴者が反応。「都合のいい大義名分」を集団的自衛権の行使容認のための解釈改憲への批判、「裸の王様」を安倍晋三首相への揶揄、さらに独裁者ヒトラーを連想させるちょび髭姿を安倍首相への風刺と受けとめ、猛反発した。 これに先立つ昨年12月28日、安倍首相と昭恵夫人が訪れたサザンのライブでも、桑田さんが「爆笑アイランド」を歌い、歌詞にない「解散なんてむちゃをいう」という一節をアドリブで盛りこんだ。これも直前にあった衆院選を批判しているととられた。 桑田さんは食道がんがみつかった2010年以降、社会問題に強く関心を示すようになったともいわれる。一昨年のライブでは、「×(バツ)」印のついた日本国旗が映りこんだ反日運動のニュース映像を流している。
寛容さのない住みにくい社会に
ネットでのバッシングだけでなく、1月11日には都内の桑田さんの所属事務所アミューズに「桑田は反省せよ」などと書いた横断幕を掲げた右派団体が押しかけ、警察官も出動する騒ぎになった。 このことが新聞の一般ニュースには書かれておらず、桑田さんがいやにナーバスになっているな、と思っていた。しかし、東京新聞1月18日朝刊の特報面「週刊誌を読む」で知り、合点がいった。たとえば、「女性セブン」1月29日号で「桑田佳祐 火だるま! 陛下と国旗で大誤算」と報じられていたという。 新聞も右派が事務所にまで押しかけていることを、きちんと報じるべきだろう。桑田さんが、なぜ繰り返し謝罪をするのか、理解しづらい。 アミューズは1月15日、年越しライブで桑田さんが十分な配慮をせずに紫綬褒章を取り扱ったなどとし、「深く反省するとともに、謹んでおわび申し上げます」「貶めるなどといった意図は全くございません」と謝罪のコメントを連名で発表。16日朝刊で各紙がいっせいに報じた。 さらにこれだけでなく、17日深夜、「TOKYO FM」のラジオ番組「桑田佳祐のやさしい夜遊び」で、「不快に思われた方にはおわびを申し上げないといけない」と謝罪した。 朝日新聞1月16日朝刊によると、おわびを表明した直後からツイッター上では驚きや賛否の声が続出したという。「『お下劣なロックミュージシャン』を演じただけじゃないの? お詫びすることもない」「洒落のわからない窮屈な世の中になっちゃたのかなあ」と嘆く声もあったとする。 しかし、一方で激しい桑田バッシングがあり、世の中が急速に右傾化、寛容さのない住みにくい社会になってきたと思えた。 お笑いコンビの爆笑問題は1月7日未明に放送されたTBS番組で、NHKの番組に出演した際、用意した政治家に関するネタを局側に没にされたと明らかにしている。 右へ右へと旋回し、保守中道が占める部分がポッカリと空いてしまった。「そこを埋めなければならない」というのは、18日に民主党の新代表になった岡田克也氏だ。 表現には節度と思慮がいる。しかし、「反日」「売国奴」「国賊」といった、ふつうでは使わないきつい言葉で、当然のように非難する昨今の社会をどう考えたらいいのだろうか。(2015年1月21日) ※この批評は東京本社発行の最終版をもとにしています。 -------------- 徳山喜雄(とくやま・よしお) 新聞記者。近著に『安倍官邸と報道―「二極化する報道」の危機』(集英社新書)。