進む「脱丸刈り」、ツーブロックも センバツ出場球児らが選んだ髪形
センバツも髪形の自由化の風が吹くのか――。昨夏の甲子園は高校球児の頭髪に注目が集まった。「エンジョイベースボール」を掲げ、107年ぶりの優勝を果たした慶応(神奈川)をはじめ、複数の代表校が「脱丸刈り」を進めていた。あれから約7カ月。開催中の第96回選抜高校野球大会の出場校に、髪形について聞いてみた。 【写真】低反発バットで センバツで第1号ホームラン ◇「ルールは校則と同じ」 開会式で選手宣誓をした青森山田の橋場公祐主将の髪形は、トップを長めに残し、サイドを短く刈り上げる若者に人気のツーブロックだった。青森山田は2017年ごろから「脱丸刈り」にしたという。 橋場主将は「ルールは校則と同じ。中学は丸刈りだったので、高校になって伸ばせると聞いてうれしかった」と素直に胸の内を明かした。 兜森崇朗監督は「従来の高校野球の髪形を否定するわけではないが、世の中の動きを考えた時に、そのように指導していくのも大事なことかと思った」と説明する。「指導に関しては手間はかかります。伸ばすなら伸ばしたで、伸ばしすぎたり……」と戸惑いを口にするものの、「それも社会に出るための準備の一つ」と話す。 幕末の1852年創立で、春夏通じて初出場の県立高・耐久(和歌山)は、21年から髪形を自由化した。 きっかけは、井原正善監督と地元の中学野球の指導者との会話だった。その指導者は小学生を勧誘に行くと、「坊主(を強制するチーム)ですか?」と聞かれたという。 井原監督は「指導方針や野球本来のところを見て選んでほしいのに、本質からずれているのではないか」と感じた。丸刈りの強制が、野球の裾野を狭める一因になっている現実を目の当たりにした。 ルールの見直しは、部員確保に結びついた。中軸を担う沢剣太郎遊撃手は「坊主が嫌で、もともと(高校では)野球をしないでおこうと思っていた。でも、耐久は坊主でないし、友人も入部するので続けようと思った」。 チーム内では大会が近づくと、気合を入れて丸刈りにする選手も増える。しかし、沢選手自身は刈り上げない。「伸ばしているというだけで、良くない方に見られることもある。『見本になるように』と入部前に監督さんに言われ、私生活の行動から気をつけています」 学法石川(福島)の佐々木順一朗監督は、前任の仙台育英(宮城)を率いた約30年前から部の頭髪の決まりを設けていない。 18年に学法石川の監督に就任した際も、選手たちへの一言目で「(髪形は)自由にしていいよ」と呼びかけた。「『普通がいいよ』ということで。(自分の指導方針は)そんなに変わっていない。ただ、それを受け入れる側が変わった。だんだん選手たちが自分で考えてできるようにはなってきた」と時代の変化を感じている。 ◇「野球にすべての時間を費やしたい」 日本高校野球連盟などが23年6月に発表した加盟校(3818校)を対象にした実態調査では、部員の髪形を丸刈りと決めている学校は5年前の前回調査から2000校以上減少し、約4分の3の学校がスポーツ刈りや長髪を認めていることが明らかになった。 一方で、今大会の出場チームでは丸刈りが多数派だ。 豊川(愛知)の長谷川裕記監督は、前監督時代に自由化された髪形を再び丸刈りに戻した。「髪形が技術を左右するわけではないというのは理解しているが、髪形で高校を決めるくらいの野球観なら、それまでかなと。例えば、(散髪代で)1カ月に3000円、4000円支払うなら、3年間で約15万円。時間がもったいないし、そのお金で自分のために手袋ひとつでも買えばいいじゃないかと」。野球に集中してほしいという思いを明かした。 指導者が自由化を促しても、選手たちが望んで丸刈りにするケースもある。 健大高崎(群馬)の青柳博文監督は昨夏ごろ、「髪形どうする? 丸刈りじゃない方がいい?」と選手に聞いた。しかし、選手全員の回答は「丸刈りのままがいい」だった。 箱山遥人主将は「高校野球は2年半しかできない。いろんな意見があると思うが、野球を頑張りに来ているから。髪が長い人が遊んでいるという意味ではない。うちのチームとしては髪の毛を気にしている暇があれば、野球にすべての時間を費やしたいよねという話になった」と説明する。 ◇「根本は丸刈りの善しあしではない」 表向きは自由ではあるが、事実上は丸刈りがルール化されているようなチームもある。 校則問題に詳しい名古屋大大学院の内田良教授(教育社会学)は「髪形だけではないが、いろんな高校でルールを強制されてきたことに疑問を持つ生徒がたくさん出てきている。合理的に説明がつくようなルールのあり方を、生徒が自分たちで考えていくことが大事」と指摘する。 そのうえで「根本は丸刈りの善しあしではない。『誰かに迷惑をかけない限り、お互いの自由は尊重される』ということが原点としては大事」と話す。 20日の第3試合では、耐久―中央学院(千葉)の「脱丸刈り対決」も繰り広げられた。全国的に自由化が進む中、球児の髪形にも再び注目が集まりそうだ。【センバツ高校野球取材班】 ◇主な出場校の監督、選手の声 ▽中央学院(千葉)=2年前から髪形のルールを定めず。 相馬幸樹監督 「うちの(ストライプ柄の)ユニホームと(丸刈りでない)ヘアスタイルがマッチする。チームの一つのアイデンティティーになればいい」 ▽田辺(和歌山)=21年度から丸刈りの強制をやめた。大会前にエースの寺西邦右(ほうすけ)投手を除いた選手が自主的に丸刈りに。 寺西投手 「この野球部に入った時から、坊主はやめておこうと決めていたので。坊主はしないです」 ▽八戸学院光星(青森) 仲井宗基監督 「(坊主頭の)この子ら、偉いなって。楽しいこともたくさんあるし、やりたいこともいっぱいある。でも、(散髪に)お金がかかる。親御さんに負担をかけたくない。『坊主が嫌で野球が』ということもあるが、それならうちに来なきゃいい。それぐらいの思いでないと、簡単に甲子園には行けないよと言っている」 ▽作新学院(栃木) 小針崇宏監督 「うちは坊主でやる。周りの学校がどうとかは気にしていない」 ▽京都国際 小牧憲継監督 「強制はしていないが、月の初めに3ミリ(に刈る)。昔から。うちは自由にしたらラインを入れたり、茶髪にしたりしてくる。(選手からの要望は)一切ない」 ▽広陵(広島) 高尾響投手 「丸刈りでいいです。広陵が今まで培ってきた伝統がある。そこを自分たちで壊したくない」