【首相所信表明】国民の信を得られるか(10月5日)
国内外の重要課題が山積する中、臨時国会で初の所信表明演説に臨んだ石破茂首相が真っ先に取り上げたのは政治不信への対応だった。「国民のための政治」の実現を誓ったものの、失われた信頼を取り戻すのは容易でない。政治改革の具体案を早急に示す必要がある。 自民党派閥の裏金事件を巡り、問題を指摘された議員一人一人と向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる考えを示した。自らも説明責任を果たすとしたが、裏金の使途など国民の疑念は解消されていない。信頼回復には真相究明が欠かせないはずだ。 「政治とカネ」の問題は衆院選でも主要な論点になるとみられている。共同通信社の世論調査で、裏金問題に関与した議員の公認を「理解できない」とする回答は7割を超えた。石破首相の就任で問題は解決に向かうとの見方は2割程度にとどまるなど、国民の目は依然厳しい。改革に本気で取り組まなければ、国民と政治の距離をさらに遠ざけるだけではないか。
演説では首相の独自色も随所に見られた。自然災害の頻発化、激甚化を受け、専任の大臣を置いた防災庁を設置する。災害関連死ゼロへ避難所の在り方を見直し、速やかにトイレやキッチンカーなどを配備できる体制を構築するとしている。ただ、関連予算や人員の確保が課題となるだけに首相の実行力が問われる。 東日本大震災に関しては「福島の復興なくして、日本の再生なし」との方針を継承した一方、言及した施策は被災地の産業再建と被災者の生活支援のみだった。課題は複雑、多様化している。現状をしっかりと把握し、臨機応変に対処すべきだ。 演説で「原発事故」の言葉を一度も用いなかったのはなぜなのか。東京電力福島第1原発の廃炉が本格化する中、風化の進行が懸念される。エネルギー政策では、安全を大前提に原発を利活用すると力説した。13年前の苦い経験を国民の記憶から消し去ってはならない。 「ルール」「日本」「国民」「地方」「若者・女性の機会」の五つを守り、日本の未来を創るとも強調した。発言と裏腹に「党利」を守りだしたら、国民の信を得られないのは明らかだ。(角田守良)