オリックス・宮城大弥が直面するエースの壁【白球つれづれ】
◆ 白球つれづれ2024・第29回 パリ・オリンピックが閉幕した。日本チームは20個の金メダルに、メダル総数は45個。海外での五輪ではいずれも最多の好成績を残した。 五輪一色の今月10日。日頃よりぐっと小さくなった野球面の中でも、良く見ないと気がつかないほどのスペースでその男の記事が掲載されていた。オリックスの宮城大弥投手。「無援 8敗目」の見出しが寂しい。 対ロッテ戦に先発した左腕は7回0/3を8安打3失点とまずまずの投球ながら、味方打線の援護は1点止まりで8敗目を喫した。今季の通算成績は3勝8敗で6月27日のソフトバング戦以来白星から遠ざかり自身初の4連敗で8敗目も自己ワーストの不名誉な数字が並んだ。 「今は何が何だかわからない状態」と声を振り絞ったが、続けて「しっかり顔を上げて取り組んでいけば必ずいい方向に行く」と必死に前を見据えた。 二番手の左腕エースから、真の大黒柱へ。宮城にとって大きな岐路に立たされて迎えた今季だった。 シーズオフに大エースの山本由伸がドジャースに移籍。さらに昨季10勝を挙げた山崎福也もFAで日本ハムに去っていった。山本16勝に、山崎福と併せて26勝分がなくなればパリーグ4連覇も怪しい。 それでも先発の柱に宮城がいれば、ある程度の計算は立つ。さらに前年に大ブレークした山下舜平太や若手有望株の曽谷龍平、齋藤響介らが成長していけば、戦える布陣になる。中嶋聡監督の“やりくり上手”もあれば、どんな戦いになるのか? 言い方を変えれば、宮城がどれほどの投球をして山本に代わる大エースになっていくのか?それがチームの生命線でもあった。 プロ入り5年目の23歳ながら、実績は申し分ない。 入団2年目の21年から13勝、11勝、10勝と着実に白星を稼ぎ出している。同期のロッテ・佐々木朗希投手が同じく3年間で19勝だから、ライバルより一歩先を歩んでいることは間違いない。その佐々木とはWBCの日本代表でも共に選出されている。 佐々木が160キロを超す剛速球とフォークボールを駆使する右の本格派なら、宮城は針の糸を通すような精密コントロールに緩急を使い分ける技巧派。そこに中日の髙橋宏斗投手を加えた三羽烏が若手のトップランナーたちだ。 ◆ 新エースとして期待された左腕が今季苦しんだ理由 そんな順風満帆の宮城にアクシデントが襲ったのは開幕直後のこと。 左肩付近に激痛を覚えたので精密検査を受けたところ、大胸筋の損傷と判明して戦列を離れる。若き大黒柱を欠いたチームは下位に低迷。宮城ばかりか、山下や守護神・平野佳寿、さらに野手でも前年の首位打者・頓宮裕真、杉本裕太郎らの主軸打者まで故障や不振からファーム調整を余儀なくされる。中嶋オリックスのもう一つの生命線だった宇田川優希、山﨑颯一郎らの強力中継ぎ陣も機能しない。前年王者はあっという間に優勝戦線から姿を消していった。 宮城にすれば、真のエースになるため例年以上に気合いを込めて臨んだシーズンだった。それが、空回りを生み、大ケガを引き起こしてしまったのか? 投球内容を見てみると、昨年までのボールのキレがないから一発を浴びるケースが目につく。真骨頂である粘りの投球が出来ていないから集中打を喫する場面も増えている。開幕投手やカート頭を任されるエースとは、常に相手主戦級と投げ合いを繰り返す。そこが、山本のいた昨年までとの大きな違いになる。 チームは残り42試合時点で借金10の5位。首位のソフトバンクから20ゲーム差以上離され、クライマックスシリーズを見据えた3位までも10ゲーム差以上後れをとっている。宮城にとっても屈辱のシーズンとなった。 しかし、これまでも逆境には人一倍の努力で這い上がってきたのが宮城大弥と言う男だ。このままズルズルと引き下がるわけにはいかない。 文字通り「しっかり顔を上げて」前を向けば、光明も見出せるはずだ。 どんな野球人でも、スランプやピンチの時は訪れる。そこをどうやって乗り切るかによって次のステップも変わって来る。 のたうち回って、苦しんで完全復活を遂げた時、宮城の金メダル物語は第2章を迎える。 文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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