越 直美「自治体も企業も多様性なくして成長なし」
女性の強いリーダーシップは欠点?
リーダーシップのあり方は人それぞれで、本来、性別は関係ありません。一方で、市長の仕事を通して、世の中にはまだまだ女性と男性にステレオタイプのイメージがあることも感じました。 というのも、2期目の選挙に出るとき、新聞には私の良い点として「実行力がある」「突破力がある」、悪い点として「トップダウン」「部下の話を聞かない」というふうに書かれました。ある市民の方から「男だったら、そんなに言われなかったのに」と言われたことがあります。それは、男性には決断力や実行力といった「強いリーダーシップ」を、女性には人の話を聞く受容性や協調性といった「優しさ」を期待する人が多い。その中で、世間の期待するステレオタイプに当てはまらないと、批判されやすいという意味でした。 私は「保育園を増やす。そのために行財政改革を行う」という公約を掲げて当選したので、任期中にそれらを実現するのは当たり前だと思っていました。それが選挙で選ばれた者としての市民との約束だからです。市長には執行権があり、議会で予算が承認されればトップダウンで政策を実行できる。その点に魅力を感じて市長になったので、改革をどんどん進めました。 それは私なりのやり方であって、男女は関係ありません。しかし女性であることで、その個性をマイナスに捉えられることがあったのかもしれません。
組織の同質化と硬直化
市長としてリーダーシップを発揮する上で一番ぶつかったのが、市の職員でした。市役所は終身雇用・年功序列の世界なので、私が直接仕事をする相手は、年上の男性管理職がほとんどです。とりわけ就任直後は、そういう方から机をドンと叩かれたり、ドアを激しく閉めて出て行かれたりすることがありました。 当時は驚き、「私が年下の女性だからだろうか?」と思っていました。でも今振り返ると、性別や年齢の問題というより、「従来のやり方を変える」ことへの反発だったのではないかと思うのです。 時代とともに人口構造が変わり、それに合わせて行政の側も変わらなければいけないのですが、市役所の中にいるとその変化に気づくのがなかなか難しい。職員からは、私の改革案に対して「いや、この部署の予算はずっとこれくらいです」「これまで何十年、このやり方でやってきたんです」という、現状維持を望む意見がすごく強かったんですね。そういう組織風土を変えるのは、大変なことだと実感しました。 でもこれは、市役所の中だけで起きていることでしょうか。日本経済が「失われた30年」と呼ばれる長い低迷期から脱せないのは、終身雇用・年功序列が主流だった日本企業において、組織が同質化・硬直化してしまっているから。その中で前例踏襲にとらわれていることが、日本から世界を変えるようなイノベーションが長年生まれてこなかった一つの原因なのではないでしょうか。