ペットと一緒に暮らせる特養ホーム:犬と猫とお年寄りの幸せな共生
「看取り犬」文福
推定年齢15歳になる柴の雑種犬、文福はホームの人気者だ。 犬の独特な嗅覚が働くのか、文福は入居者が亡くなる2~3日前に部屋の扉にもたれかかるようにして座り、最期が近いことを察するとベッドに上がり、顔をいつくしむようになめる。それは明らかに寄り添い看取るという意思を持った行動に見える、と若山は言う。 2019年に刊行された若山の著書『看取り犬・文福の奇跡』は、刊行と同時に、大きな話題を投げかけた。NHKをはじめとしたテレビ番組や雑誌などでも、文福のけなげな姿が取り上げられた。 実は文福は、保健所で殺処分寸前のところを千葉県の保護団体「ちばわん」に助けられた経緯がある。人に見捨てられ独りぼっちで死の縁に立った経験が看取り行動につながっているのかもしれないと思わせる。 ただ最近、さすがの文福も嗅覚が衰えてきたのか、自然の流れとして看取り活動は終わったともとれる様子が伺える。
文福の盟友・大喜
大喜(だいき)も文福と同じ保護犬出身で、やはり柴の雑種である。冒頭の写真のとおり、私が大喜に初めて会った時は、すでにユニットのフロアーに体を横たえ、介護士・出田恵子さんの心のこもった手厚い介護を受けていた。 出田さんは「老犬介護士」の資格も持っている。陸上自衛隊出身であることから「アーミーさん」という愛称で親しまれている。淡々とメリハリの効いた世話っぷりは、「大喜の介護を1ミリたりとも苦痛に思ったことはない」と言わしめるほど、全身全霊を捧げたものであった。
虹の橋
そんな大喜が、3月27日、突然亡くなった。 さくらの里山科のブログには、大喜の最期の様子が書き留められていた。 <大喜が虹の橋へ旅立ちました。とても穏やかなお顔です。 今日はけいれんが止まらなかったのですが、苦しむことなく、最期の時は穏やかに眠るように旅立ちました。今日の午前中、真っ青な空のもと、大喜を抱きしめて外散歩に連れて行くアーミーさんの姿がありました。> 私はふと、前回訪ねた時に撮った、アーミーさんが大喜を抱っこしている写真を思い起こした。その壁には、太陽の光を受けて、緑の木々が影絵のように、虹の橋のように、揺らめいていた。