ペットと一緒に暮らせる特養ホーム:犬と猫とお年寄りの幸せな共生
高校教師から福祉の道へ
普通のサラリーマンと主婦だった両親が福祉施設の設立を志し奔走していた頃、若山は茨城県の進学高校で理系クラスの教師をしていた。 「両親から手伝ってくれと言われたものの、教師として8年目、最もやりがいを感じていた頃でした。ところが、クラスの教え子で科学者になることを夢見ていた明るく活発な女子生徒が 、9月初めの土曜、朝7時半からの補習に参加しようと自転車通学する途中で、交通事故に遭ってしまったんです。知らせを受けて病院に駆けつけましたが時すでにおそし。 帰らぬ人となってしまいました」今でもその時のあってはならない理不尽な情景がまざまざと脳裏によみがえるのか、若山の声が何度も詰まる。 そして、残された半年を教員として燃焼し尽くし、福祉の道へと転身を決意する。 1999年に両親と共に社会福祉法人「心の会」を設立、翌年に高齢者のデイサービス、知的障害者の就労支援施設を開設した。
あきらめない福祉
若山は、福祉でよく使われていた陳腐な言葉「あきらめない福祉」に対して、言葉だけではなく、本気で実現させていく行動力が必要だと感じていた。 そんな時、ある老人ホームに入るため愛犬を保健所に引き渡さざるを得なかった独居男性のケースを知った。その人は入居後「俺は自分の家族を自分の手で殺したんだ」と号泣し続け、半年で亡くなった。 「人生いいこともいっぱいあったはずなのに、自分を責め続けて亡くなった。高齢者をこんな最期に追い込んでいいのか、こんなのが老人福祉なのか?」と自身に問いかけた。この体験により、当時準備中だった老人ホームをペットと暮らせる施設にできないか、と漠然と考え始めた。 そのころ、横須賀市はある高齢男性の支援に困惑していた。生活保護を受けつつ犬を飼っていたが認知症が進み、共倒れになる瀬戸際だったが、「愛犬をおいてはどこへも行かない」と頑なだったのだ。そこで、ちょうど開設したばかりの「さくらの里山科」でこの男性を犬とともに受け入れた。すると、愛犬が先に亡くなったにもかかわらず、男性は半年後、穏やかに息を引き取った。