日本の1人あたりGDPが韓国に追いつかれるって本当?
図をみるポイントは円安です。ドル換算の名目値は、日本円で一定の場合でも、円安になると下落してしまいます。逆に、1995年や2012年頃のように、円高の時期はドル表示の名目GDPは大きく伸びています。現在の歴史的な円安が、ドルで見たときの日本のGDPを大きく低下させているのです。 例えば、World Bankの統計に購買力平価に基づく1人あたり実質GNI(国民総所得)のデータがあるので、2014年以降について線型推計してみました。簡単な推計ですが、実質では、徐々に縮まっているものの、日本と韓国との差はしばらくありそうだといえそうです。
背景にある問題は産業構造の変化
以上のように、韓国経済が日本に追い抜くというのは、ややからくりのある表現だということが分かりました。また、2つめの図にあるように、実質値でみれば、日本経済についてそれほど悲観する必要はなさそうです。けれども、このような予測がなされるには、その背景に何らかの問題があることを意味します。 そのポイントは、よく議論されている実質賃金です。名目で考えると、通常はインフレと賃金は連動します。けれども、海外からの輸入財の価格上昇によってインフレが発生した場合は、それが賃金上昇につながることにはなりません。そのため、先ほどの1人あたり実質GNI(国民総所得) の図をよく見ると、1997年の金融危機後や2008年の世界金融危機後ほどではありませんが、2014年に低下していることがわかります。 エネルギーや食品の原材料などの輸入財の価格が上昇すれば、やはり、実質的には日本人の生活は窮屈になります。今年は、原油価格が大幅に下落したため国内物価の上昇が相殺されています。そうでなければ、インフレがより大きな実質賃金の低下をもたらしていたことでしょう。 ただし、賃金を無理に引き上げればよいというわけではありません。もし、無理な引き上げが行われれば、失業率は悪化する可能性があります。国民所得が、労働者にどれだけ配分されたかをみる指標として、労働分配率があります。労働分配率は、例えば2006、2007年ころと比べるとやや高い水準なので、(一般的には、とくに中小)企業が利益をため込んでいるとは考えられません。失業率に影響を及ぼさないで、さらに賃金を引き上げる余地はそれほどないでしょう。