世界で中国の1社だけが原材料を製造する抗菌薬 「脱・中国依存」の高い壁
深刻な事態を受け、国は抗菌薬の国産化支援を打ち出した。22年、とくに重要な抗菌薬4品目を半導体などとともに「特定重要物資」に指定。23年7月には、Meiji Seika ファルマ(Meiji)、塩野義製薬傘下のシオノギファーマなどに対し、製造設備や備蓄設備への助成金の支給を決めた。 平時は国産と輸入の原薬を併用し、有事は必要量のすべてを国産で賄える体制を構築していく。 しかし「純国産抗菌薬」の実現は簡単には進まない。1つは製造技術の継承ができていないこと。Meijiは1946年に抗菌薬のペニシリンを開発し、現在も注射用ペニシリンで国内では7割近いシェアを持つ。ただし、価格高騰によって原材料からの製造は94年に停止。今は原薬の全量を中国から輸入する。今回の国の支援を受け、数百億円を投じて岐阜工場に生産設備を新設。25年までにラインを立ち上げ、28年には原薬の出荷を開始する予定だ。
■国産化すれば原価は3倍に Meijiの小林大吉郎社長は「岐阜工場は更地にして売却しようと考えたこともあるほどで、既存の設備は古く、それを運転できる人材も高齢化していた。今はギリギリ残っていた人が若手に技術を教えている最中だ」と語る。 より難しいのは採算性の問題だ。国産化すれば「原薬の原価は3倍程度になる」(小林社長)。一方、注射用抗菌薬の薬価は数百円と安い。19年のセファゾリン供給停止を受け、主要な抗菌薬の薬価は上がったが、「一部製品では採算割れしている」(同社)。
抗菌薬の製造には専用工場が必要で、転用が利かない。平時でも、稼働維持のコストはかかる。小林社長は、「国の安全保障に資する事業として、一定の利益が保証されないはずはないだろう」と期待をかける。 具体的には、薬価の引き上げに加え、国による買い上げ、平時に輸出できる体制の構築などが検討項目になる。政府は6月の「骨太の方針」で、24年度中にその方策の結論を出すと明記した。国民の命に関わる医薬品の供給には、健全なビジネス環境の整備が必須となる。
印南 志帆 :東洋経済 記者