<北朝鮮内部>広がるカード決済、その仕組みは?信頼度は? (2)普及進むも「国を信用できない」と忌避する空気も 当局は金の流れ把握し監視強化
◆市場でも決済可能、農村では普及せず
協力者C氏は、「ジャンマダン(市場)でもカード決済が可能ではある。けれど、決済の5日後に(販売者)本人の口座に入金される形式でとても不便だ」と伝えた。 協力者A氏の説明でも、市場でのカード決済は現実的ではなさそうだ。 「靴売り場、糖果類売り場などと分けて、3~5店舗にひとつ決済機がある。しかし、実際は電気が通っていないため、市場管理所で決済することが多い」 加えて、カード使用には、都市と農村の地域差が歴然とあるようだ。 「農村では、カードを使う人がほとんどいない。それでも村内にカードを持っている人が1人か2人はいるので、市内の商店まで買い物に行く時には、その人に現金を預けて代わりに買ってもらうこともある。けれど、大体の人はカードを持とうともしない」(協力者B氏)
◆「どこからの金か?」 取締りに危機感
当局の立場からすると、カード決済が普及するのは良いことに違いない。資金の流れを統制すると同時に、個人の現金入出金記録を通じて、住民監視も可能になるためだ。住民たちも、当局のこうした狙いを知っており、カードの使用に不安も抱いている。 「私はカードを使う必要がある時にだけ、10万ウォン程度だけ入金している。心配なのは入金する度に名前と職場、労賃の金額まで書かなければないことだ。『どこから出た金か?』と聞かれたら、言い訳ができなくなった。周りのお金に少し余裕のある人たちも、月に50万ウォン程度だけ入れて使っている。お金のある人ほどカード使用を嫌う傾向がある」(協力者A氏) C氏とB氏も同様の懸念を抱いている。 「(カードに)大金を入れて失くしたり、(預けたお金が)なくなってしまうのではないかと心配で、1カ月に使う分だけ入れて決済している。普段は15万ウォンくらい。送金が必要な時はカードにお金を入れて送る。」(協力者C氏) 「検察所や安全局(警察)の取り締まりで、カードへ入金されている金の出所を調べる場合もある。当初、むやみにカードで送金していた人たちも、今は慎重になった。まだ国家を信じられないので使わないようにする人たちもいる」(協力者B氏) また、C氏によれば、6月上旬、中国から不法に受け取ったお金をカードを通じて黄海道(ファンヘド)へ送金した人が取り締まりに遭い、送金記録を追跡し清津(チョンジン)と吉州(キルジュ)のブローカーが相次いで捕まる事件があったという。この事件の後、人々の間でカード使用を忌避する雰囲気もあると伝えた。
◆カードは普及するか? 統治体制の行方
こうしたカード決済システムの構築は、コロナパンデミック以後、金正恩政権が強力に推進している国家中心の統制経済体制の一環と理解できる。 協力者A氏は、「今後はカードしか使えなくなるだろうと、住民たちはカード使用に切り替えようとしている。国では新しいお金を刷ることができず、使えないほどボロボロになった紙幣も交換できないため、カード利用は広まっていくだろう」と語った。 ※アジアプレスは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取っている。