「台湾の大学」進学を選ぶ日本の高校生が増えている
コロナ禍が明けて真っ先にマスコミが取り上げたのは、台湾のグルメ、観光だった。この年末年始の日本人の旅行先ランキングでは、台湾が堂々の2位である。 だが台湾の魅力は、グルメや観光だけではない。実は今、教育関係者から熱い視線を向けられているのが、台湾の大学への留学だ。それも半年、1年の短期ではない。入学して卒業までの4年間を、まるごと台湾で学ぶのだ。 橋本真那さんは、今年6月に国立台湾芸術大学を卒業。専攻はダンスだ。現在は日本でダンスハウスに所属しながら、作品に参加したり公演を開催したりしている。実は台湾のダンスは、世界的に注目されているという。 「留学中、言葉には苦労しました。一人の相手と話す分には、何とかなる。でも複数の人から同時に中国語を話されると、混乱してしまう。初めはどうなることかと思いました」 授業は録音して何度も聞き返す。コツコツと積み上げた努力が実を結び、何とかついていけるようになった。 「台湾人の友達には、すごく助けてもらいました。最初に壁を感じたことは確かだけど、それを乗り越えたら、ものすごく強いきずなができたんです」 真那さんが留学してすぐ、台湾もコロナ禍となった。しかし台湾の大学は一律にオンライン授業のみという日本の大学とは違い、臨機応変に対応した。状況に応じて、半分ほどは対面の授業もあったという。 台湾の大学生は、基本的に寮生活だ。寮にはいくつかタイプがあるが、真那さんの場合は4人部屋だった。日本では幼いころから個人部屋で育つ子が多い。ストレスがなかったと言えば、嘘になる。最初はいろいろあったが、「そのうち慣れました」という。
学費は東京の大学に行くより安い場合も
真那さんは留学前に産経新聞の日台文化交流青少年スカラシップの作文に応募。見事大賞を受賞して台湾総督府に招待された。真那さんも含めて計8名の高校生たちは、副総統の陳建仁氏と面会を果たしている。 都内にある彼女の出身校、文教大学付属高等学校は近年、台湾の大学への留学プログラムに熱心に取り組んでいる。彼女はその三期生だ。導入した星野喜代美元校長は、都立高校改革に取り組んだ河上一雄元日比谷高等学校校長の下で働いた教師の一人である。提携先の業者は、台湾留学サポートセンター(以下センター)。同校の東條朱里教諭曰く「星野先生自ら、茨城の本部まで乗り込んで」、徹底的に精査した。その上で信頼できる業者と判断したという。 センターは毎年300名以上の生徒を台湾に送り込んでいる。今年は国立台湾大学に5名、地方国立大学に20名、さらには名門私立の東海大学、中原大学、逢甲大学、中国文化大学にも数多くの合格者を出している。優秀な生徒には奨学金が与えられ、場合によっては4年間の学費、生活費が免除されることもある。中退率はわずか4.5%(体調不良による中退者含む)。最近センターへの相談で目立つのは、台湾の大学が提供する給付型奨学金に関する問い合わせだ。台湾の大学の学費は、国立私立、理系文系でさほど差はなく、年間50万円ほど。入試から入学手続きまでに至る費用は、センターを介した場合で20~25万円だ。 特に地方の高校生にとって魅力的であることは間違いない。地元の大学に進学しても、良い就職先があるとは限らない。実家を離れて都会の大学に進めば、学費に加えて生活費が大きな負担になる。そう考えても不思議はないほど、今の日本で、教育費は大きく家計を圧迫している。平均的な授業料は私立大学文系で年間約82万円、理系は約114万円。学費のほかに施設設備費も必要で、総額で年間200万円に上る大学もあり、医学部はさらに高額になる。国立大学の授業料は年間約54万円だが、各大学が標準額の20%増を限度に学費を決められるようになったため、東京工業大学ではすでに値上げ済みだ。今後どれほどの金額になるかは不透明である。 日本は受験システムも複雑化し、同じ大学の同じ学科を受けるのに、いくつもの受験パターンがある。どの組み合わせを選ぶかを決めるのにも、塾の力を借りることになる。受験料だけでもバカにならない。「うちはヴィトンのバックくらいかかったわ」「うちはエルメスよ」というのは、受験期にママ友間で交わされる定番の会話だ。ではAO入試(現・総合型選抜)はというと、これも対策のため塾に通わなければならない上に、入学後の学力の問題がある。死に物狂いで勉強して一般受験した学生と、差があるのは当然だ。中退者の割合が多いのも、AO進学者と言われている。 それに比べて、台湾留学の場合、受験はいたってシンプルだ。まず高校での内申点と小論文を大学に提出する。書類審査に通れば、次は面接。それをクリアーして、合格通知となる。小論文は「私はどういう人間か」という自己紹介から始まり、その大学への志望動機、入学してからの学習計画などを書かせる場合が多い。漠然としているだけに、掘り下げが難しい。もちろん中国語で書く。面接は大学によって時期が異なる。