トランプ2.0が日本の脅威になり得る? 「台湾の現状を崩す」対中政策
台湾をめぐる「現状」は崩れる
そして何よりも予測が難しいのが、「トランプ2.0」の台湾政策だ。トランプは台湾政策についてほとんど公言していない。それを垣間見ることができるのが、2023年7月の米FOXテレビのインタビューで、「たとえ中国と戦争になっても、米国は台湾を守るべきか」という質問にトランプはこう答えた。 「私が大統領の立場だったら、私の考えていることについては答えたくない。その質問に答えたら、交渉のうえで私が不利な立場に置かれるからだ。一つ言えることは、台湾は私たちの半導体製造をすべて奪ってしまった。私たちはかつて自分たちで半導体を製造していたが、今では半導体の90%が台湾でつくられている。もし中国が台湾を奪えば、世界を敵に回すことになる」 「覚えていてほしいことは、台湾が高性能で素晴らしい我々のビジネスを奪ったということだ。我々はそれを阻止すべきだった。課税すべきだった。関税をかけるべきだった」 トランプの台湾観は、民主主義のような価値観ではなく、半導体産業という経済要素だけに重点が置かれていることがうかがえる。しかも、中国と同様、米国の産業への「加害者」とみている点が見逃せない。 台湾有事が緊迫化してくると、トランプは台湾を防衛する見返りに、半導体産業を米国内に誘致するような交渉を仕掛けてくるほか、高額な武器の購入を台湾側に要求することが想定できる。 また、台湾を対中交渉の取引材料の一つとみていれば、中国との貿易赤字を縮小する見返りに台湾問題で譲歩する可能性が浮かび上がる。これによって、トランプが「台湾危機を回避した」と内外にアピールできれば、悲願のノーベル平和賞の獲得に一歩近づくことにもつながる。 こうしてみると、中国に対して「トランプ2.0」が強硬になっても、デタント(緊張緩和)に向かったとしても、台湾をめぐる現状は崩れ、日本にとっても厳しい情勢に追い込まれることになる。 2024年の「選挙イヤー」は、国際秩序を激変させる転換点となりうる。中でも第2次世界大戦後、80年近くにわたり奇跡的に平和を享受してきた日本が、最大の被害国になりかねない。その最大のトリガー(引き金)となりうるのが、台湾有事なのだ。
峯村健司(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)