後輪駆動で517馬力 自然吸気6リッターV12に6段マニュアルって、凄すぎ! 2008年モデルのDBSは、どんなアストン・マーティンだったのか?
6リッターV12! これぞイギリス車!
ご存じ中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の過去の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2008年の1月号に掲載されたアストン・マーティンDBSのリポートだ。フォード傘下から離れた新生アストン・マーティンのニューモデル第1弾として登場したアルミとカーボンで武装した新型DBSは、美しくも力強いボディの内にどんな能力を秘めていたのか。2007年の年末に行われた国際試乗会の模様をお届けする。 【写真11枚】2008年モデルのアストン・マーティンDBSはどんなスポーツカーだったのか? 詳細画像でチェックする ◆ジェームス・ボンドのような 今年8月に生産を終えたヴァンクウィッシュに替わるアストン・マーティンの最上級スポーツ・クーペ、それが新型DBSだ。今夏のペブル・ビーチ、コンクール・ド・エレガンスで正式デビューしたが、それ以前に、映画007シリーズの最新作「カジノ・ロワイヤル」にボンド・カーとして使われていたから、その姿を映像で目にした人も多いはずだ。 アストン・マーティンのデザイン・ディレクター、マレック・ライヒマン氏によれば、新型DBSの開発コンセプトは、「タキシードを着たタフ・ガイ」。まるで映画のなかのジェームス・ボンドのイメージそのもののようだが、ヴァンクウィッシュがどこからみても力強さを表した造形を持っていたのに対し、こちらはタフであると同時にエレガントなデザインを目指したという。 たとえば、2台の前後のフェンダーの膨らみ方を比較してみれば、その違いは明らかだ。あくまでも筋肉隆々な肉体を見せつけるヴァンクウィッシュに対して、DBSでは引き締まったアスリートのような体躯が、控え目に内なる性能を表している。 その造形に寄与しているのは、新型DBSの内外装に多用されているカーボン・ファイバーだ、とライヒマン氏は言う。軽量で高い強度を持ちながら、どんな造形をも作り出すことができるこの素材は、機能はもちろん表現の面でも大きな自由度を与えてくれるからだ。それはフロント・スポイラーやリア・ディフューザー、ドア・ミラーのステイといった見てわかる部分だけではなく、ボンネットやフェンダー、トランクリッドなどの塗装されたパーツにも使われており、そのヴォリュームは現在の世界の市販車のなかで最大と言っても間違いあるまい。 ちなみに、ブレンボ製のブレーキにもカーボン・セラミック製ディスクが標準装備されているほか、プロペラ・シャフトもカーボン製。内装ではドア・トリムやドア・ハンドルにカーボンが使われている。 そしてもうひとつ、カーボンと並んで新型DBSに多用されている素材がアルミニウムだ。新型DBSは、アルミニウムのプレス材や押し出し材を接着剤とリベットでつなげたVHプラットフォームを、DB9から受け継いでいる。このVHプラットフォームはすべてのアストン・マーティンに共通するもので、新型が開発されるたびに改良が加えられているという。たとえば、V8ロードスターが開発された時にはエンジン・ルーム内にクロス・カー・ビームが追加されたが、新型DBSにもそれが使われている。 アルミとカーボンを多用して軽量化を図った結果、新型DBSの車重はヴァンクウィッシュより180kg、DB9より65kg軽い1695kgにおさえられた。そのフロント・ミドに、DB9の6リッターV12のおもに吸気系に改良を加え、プラス61psの517psに増強したユニットが搭載されるのだから動力性能は凄まじい。0-100km/h加速4.3秒。最高速302kmというのがメーカー公表値だ。 組み合わされるトランスミッションは6速マニュアルのみで、ほかのアストン同様、ギアボックスがリア・アクスルの前に置かれるトランス・アクスル方式が採用され、エンジンとの間をトルク・チューブで繋いでいる。その結果、重量の85パーセントがホイールベースの内に置かれているというから、速さだけではなくハンドリングの良さも兼ね備えているであろうことは想像に難くない。 ◆激しい雷鳴のような音 サファイア・クリスタルを使った美しいキイをセンターコンソール上部に穿たれた穴に差し込むと、エンジン始動準備完了を知らせる赤い点滅が始まる。そのままキイをさらに押し込めば、一瞬の静寂ののちに、激しい雷鳴のような音を轟かせて6リッターV12に火が入る。いや、雷鳴が轟くのは外の話で、室内では心地よく耳に入ってくる程度なのだが……。 シートはリクライニング機能つきのバケット。サイドが大きく張り出し、ややタイトだがホールド性は抜群だ。着座位置は思い切り低い。無償オプションとしてカーボン製のフルバケットを選ぶことも可能だが、これはかなりレーシーな仕様で、背が極端に立っているから、リラックスして乗りたいムキにはお勧めできない。いずれもシート表面には、軽量かつ肌ざわりのいいセミアニリン・レザーとアルカンタラが使われており、ワインディングを攻めている時にお尻が滑るなんてことはない。 巨大なアルミ製のノブがついたシフト・レバーを1速に入れ、500馬力超のエンジンを持つクルマにしては踏力が軽めのクラッチを繋ぐ。6リッターV12は下のトルクがやや細めで発進時には繊細さが要求されるが、ひとたび繋がってしまえば、あとはアクセレレーターを踏む足に力を入れればドカンと発進する。 ビルシュタイン製のアダプティブ・ダンパーをノーマル・モードにしておけば、乗り心地はこれまでのアストンと比較して格段にいい。いや、たとえスポーツを選んだとしても、鋭い突き上げに不快な思いをさせられることはないだろう。すべての動きは滑らかかつしなやかで、超高級スポーツカーにふさわしい居心地の良さが室内を支配している。 聞こえてくるのは、V12の緻密な回転音と控え目なエクゾースト・ノート。回転数を上げていくと、4000付近でサウンドが変化し、再び激しい雷鳴が轟くが、室内にいる限りは遠い雷鳴といったレベルだ。このサウンド・チューニングにはかなり気を使ったとアストン唯一の日本人エンジニアから聞いた。DB9よりずっとアグレッシブでヴァンクウィッシュのようなエキサイトメントを持つが、しかしソフィスティケイトされた音。街中ではいたって静かに、高速道路を飛ばす時には心地良いサウンドが室内に響くよう、回転数との関係を調整したのだという。 ◆節度感あるスポーティさ 今回の試乗コースにはワインディングもかなり含まれていたが、コーナーを駆け抜ける気持ち良さは特筆に値するものだった。新型DBSのハンドリングはかなりシャープだがシャープ過ぎない、節度感あるスポーティさとでも言えばいいのか。軽めのタッチのステアリングを切り込んでいくと、スッとノーズが内に入っていく。その時、ダンパーをスポーツに設定しておけばロールは極少。動きは極めてダイレクトで、センシティブな運転が要求されるが、決して神経質になる必要はない。 たとえば、最大のライバルであるファラーリ599と比べたら、DBSは極めて重厚な、安定感のあるスポーツカーだ。599が触れなば切れんという研ぎ澄まされたカミソリだとすれば、DBSは程よい切れ味の鈍い光沢を放つナイフといってもいいかも知れない。少なくとも、いつリアが滑り出すかと、お尻の下がムズムズするような感覚は皆無だ。 むろん、自動安定装置のDSCをオフにしてアクセレレーターを乱暴に踏み込めば、いつでもリアをブレークさせられるパワーを持っているし、あるいは、少しだけお尻を流すのを許容するトラック・モードも用意されている。しかし、コーナーを限界まで攻めるような走り方が、この贅沢な2座スポーツ・クーペにふさわしいとは到底思えなかった。 やろうと思えばできる。でも、あえてやらないという節度感こそが、「タキシードを着たタフ・ガイ」の真骨頂なのではないかと思った。 文=村上政(ENGINE編集部) 写真=アストン・マーティン・ラゴンダ・リミテッド ◆アストン・マーティンDBSのおさえどころ ・ヴァンクウィッシュの後継車なれど、よりコンフォート指向に。 ・アルミ・バスタブ構造のVHプラットフォームはDB9の発展型。 ・6lV12+トランスアクスルのドライブトレインも同様。 ・ボディ・パネルにはアルミに加えて、カーボンファイバーを多用。 ・アストン初のカーボン・セラミック・ブレーキを標準装備。 ・お値段は最大のライバル、フェラーリ599を上回る3270万円。 ■アストン・マーティンDBS 駆動方式 FR(トランスアクスル) 全長×全幅×全高 4721×1905×1280mm ホイールベース 2740mm 車両重量 1695kg エンジン形式 アルミ製V型12気筒DOHC48バルブ 排気量 5935cc ボア×ストローク 89×79.5mm 最高出力 517ps/6500rpm 最大トルク 58.1kgm/5750rpm ギアボックス 6速MT(グラッツィアーノ製) サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン/コイル ブレーキ 通気冷却式カーボン・セラミック・ディスク タイヤ (前)245/35ZR20/(後)295/30ZR20 車両本体価格 3270万円(日本でのデリバリー開始は来年3月) (ENGINE2008年1月号)
ENGINE編集部
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