山田洋次 92歳 歌舞伎座で初演出 下町の長屋暮らしから学ぶ現代に必要な賢い生活
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10月2日から歌舞伎座で上演中の『錦秋十月大歌舞伎』(25日まで上演)で『文七元結物語』の脚本と演出を担当している山田洋次監督(92)にインタビュー。2007年以来、16年ぶりに歌舞伎に携わることとなった山田監督ですが、歌舞伎座本興行での脚本・演出は初めてとなります。歌舞伎俳優の中村獅童さん(51)や、寺島しのぶさん(50)が出演することでも話題となっている今作。この演目を通して山田監督が伝えたいことを、日本テレビアナウンサー・市來玲奈が伺いました。 【画像】山田洋次 中村獅童&寺島しのぶの配役決めた理由
■歌舞伎座で演出・脚本に初挑戦
『文七元結物語』は、もともと落語の人情噺で、歌舞伎でも『人情噺文七元結』として愛されてきた人気作。山田監督は、2007年に新橋演舞場にて、十八世・中村勘三郎さんを主演に、同作を手掛けましたが、今回、脚本・演出が一新。山田監督による新たな物語となっています。 ――初めて歌舞伎座の演目を脚本・演出されるということですが、心境はいかがですか? とにかく舞台がものすごく広いのね。良い悪いじゃなく、その広さをどう使うか途方に暮れるぐらい大きな勝負ですね。役者にとっては、この広い舞台で、1人でしゃべれば、舞台全体に自分の姿が広がっていかなきゃいけないわけでしょ。劇場も広いけど、とても大変なんじゃないかな。だから美術には随分苦労しました。今までの文七元結と少し違う形の、ある意味もっと表現的な舞台にしています。
■長屋暮らしから学ぶ賢い生活 「むしろマンション暮らしの方が質としては低い」
幼い頃から仲が良かったという獅童さんと寺島さんは、今回初めて夫婦役に挑戦。娘が家を出て行ってしまったことをきっかけに、長屋で繰り広げる夫婦げんかのシーンなど、2人の掛け合いが見どころの一つとなっています。 ――山田監督は、今まで“家族の形”を数多く描かれてきましたが、今回、獅童さんと寺島さんの夫婦はどのように描かれていますか? お互いに喧嘩したり、悪口を言い合ったりしながら、その心の奥に一緒に暮らしていくという、“一緒に共同体をつくっていくんだ”という意志の力。それがとても大事なことだと思う。僕は、江戸時代から明治期にかけて、日本の特に東京の江戸の下町の人たちは、非常に賢く生きてきたんじゃないかと思っていて。この人たちが考えてきた様々な助け合うシステム。生活に困っている人、病気になった人、あるいはお祝い事、結婚式とか、お葬式とか、全てについてみんな長屋の人たちが相談しながら、自分たちの力でやってきたんじゃないかな。病人の看護、老人の介護に至るまで、とても賢い生活の仕方がかつての長屋にはあったんじゃないかと僕は想像しているわけね。むしろ、今のマンション暮らしの方がはるかに質としては低い。今、お互いに助け合っていくという考えは、まるでなくなってきちゃっているわけです。 ――確かに、コミュニケーションが少なくなっているかもしれないですね。 文化というのは、まず助け合って生きていくというところから生まれてくるのに、それをどんどんどんどん省いて、それぞれの人を孤立させていくのが今の現代の流れで。そういうことに僕はちょっと疑問があってね。だからこのケンカばかりしている夫婦だけれども、この夫婦に僕はとても尊敬しながら作っているつもりです。 ――監督にとって『文七元結物語』の見どころは、どの部分でしょうか? この話は、何といっても貧しい長屋暮らしの人たちが、どうやってお互いに助け合って生きていくかというそういう課題について語られている。そして、人間には善意というものが誰でもあるんだ、自分では気がつかないけども、一見悪く見えるやつの中にだって必ず善意が潜んでいるんだということをこの落語は語っているんですよ。芝居の上でもそこを僕は拾い出すようにして、それが観客にどう伝わるかっていうのが勝負ですね。