筋肉は必要ならば確実に太くなり、必要なければ速やかに細くなる
筋トレは重力が増大したと筋肉に錯覚させる行為?
ただし、水中の生物の場合は重力の影響が小さくなるので状況が違います。サイズが大きくなることによる不利益はあまりないので、シロナガスクジラのような巨大な生物も存在することが可能です。しかし、あれだけの巨体を持って地上に上がったら、とても満足に動けないでしょう。 地上では、体のサイズに応じて求められる筋肉量が変化すると考えられます。体が大きくなるにつれて、それを動かすために必要な筋肉量がより増えていくと、やがて体が筋肉と骨だけになってしまうかもしれません。したがって、生きていく上で限界となるサイズはあるはずです。 また、同じプロポーションを保ったまま大きくなることは現実的に難しいので、大きな生物と小さな生物では体の形が変わってくるのが自然です。仮に人間がどんどん大きくなっていったとすると、あるところで姿かたちが変わるはずです。おそらくティラノサウルスのように重心に近いところから巨大な脚が伸び、下半身の大きさのわりに頭が小さくなるというバランスになることが予想されます。そして体の大半を筋肉が占めるということにならないと、元気に動き回ることはできないでしょう。 「比較バイオメカニクス」という分野の研究によると、ブロントサウルスやウルトラサウロスのように全長30メートル超・体重80トン超にもなるような恐竜は、理論上は地上では動けないという説もあります。なので、四足歩行の巨大な草食恐竜たちは体の3分の2以上が湖などに入った状態で生活し、浮力によって関節への負担を減らしていたのではないか、とも考えられています。 種によっていろいろな事情はあるにせよ、筋肉が肥大するという現象は重力に逆らって自在に動くための普遍的な戦略の一つと考えられます。大きな力を出さなければ餌にありつけない、といった理由がなければ、わざわざエネルギーコストの高い筋肉を大きくする必要はないからです。 筋力トレーニングによって筋肉を肥大させることは、そうした生物の適応能力を利用し、地球の重力が増大したかのように筋肉に錯覚させることとも言えるでしょう。