ガザ危機から今日でちょうど1年…「イランなしのガザの和平は非現実的だ」といえるワケ
イスラエルにできる殲滅以外の戦略とは
実はさらに深刻な問題は、ハマスを殲滅した後のガザ統治体制の青写真が全くないことだ。 そもそも占領者であり破壊者であるイスラエルに、戦後の安定したガザの統治体制など確立できるはずはない。もともと統治の難しさに手を焼いて、「天井のない監獄」と呼ばれる封鎖体制へと、かつてガザの占領政策を転換させた経緯がある。 強制移住まがいの政策が進展しないならば、西岸で行っているように、あらためて多数の入植者を送り続けて、ガザを侵食していくしかない。 だがそのような悠長なやり方では、ガザ全域で統治を確立するまでに、相当に長い時間がかかる。そうなると、少なくとも、イスラエルの代理人として、統治を代行してくれる傀儡政権が必要になる。 イスラエルは、自らの代理人になってくれる傀儡政権候補のパレスチナ人勢力を探し出すか、作り出さなければならないのだが、そのようなパレスチナ人は存在しない。 あるいは万が一存在したとしても、あるいは人工的に作り出したとしても、パレスチナ人社会の中で激しい反発を受けるだけだろう。 イスラエルの後ろ盾であるアメリカは、建前ではまだ「二国家解決」を捨てていないという立場をとっていることもあり、西岸に存在するパレスチナ自治政府(PA)の統治をガザにも持ってくるという机上の空論にしがみついている。 しかし西岸においてすら信頼されていないPAを、イスラエルの傀儡政権としてガザに再注入してみたところで、機能するはずがない。 アメリカはそこでイスラエルとの外交関係を樹立した「アブラハム合意」派のアラブ諸国に、平和維持部隊をガザに派遣してもらい、イスラエルの代理人として治安維持にあたってもらえないか、といったことを画策している。 だが現在のガザ危機をめぐるイスラエル非難の国際世論、特にイスラム世界における世論の動向をふまえれば、イスラエルとアメリカのためにそのような自殺的な行動に出てくれるアラブ諸国は存在するはずがない。 このように考えてみると、イスラエル完全勝利というシナリオは、最初から極度に抽象的なものでしかない砂上の楼閣であった。1年たってなお、同じ事情しか存在していない。