「6.2リッターV8 OHVの咆哮を聴けば、「本物はこっちだ!」と叫びたくなる」 清水草一がシボレー・コルベットほか5台の輸入車に試乗!
外車はスターだ!!
モータージャーナリストの清水草一さんがエンジン大試乗会で試乗した5台のガイ車がこれ! シボレー・コルベット、ジャガーIペイス、マクラーレン・アルトゥーラ、メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス、ボルボXC40リチャージに乗った本音とは? 【写真22枚】モータージャーナリストの清水草一がエンジン大試乗会で乗った5台の輸入車を写真で見る ◆ガイシャはスター! 箱根ターンパイクを次々と登ってくる素晴らしいガイシャたちを見て、改めて「ガイシャは俺にとってのスターだ!」と思いました。自分は現在、特に推しのアーティストはいませんけど、ステキなガイシャは間違いなくスターです。見るだけで心が躍り、元気になるんですよ! しかも今年は昨年に続いて、EPC会員の皆様に助手席に乗っていただきつつ、大好きなガイシャを堪能することができました。自分と同じクルマ好き&ガイシャ好きの方々と、歓喜を分かち合うことができたんです。ともに推し活ができたんですから、これ以上のヨロコビはありません。 アイドルの推し活の経験はないけれど、きっとこんな感じなんでしょうね。2023年の大晦日、紅白歌合戦に伊藤蘭さんが出演して、私と同年代の中高年男性が掛け声をかけて踊ってましたが、アレと同じですね! ◆シボレー・コルベット「本物はこっちだ!! 」 今さら記すまでもないが、アメリカンV8は内燃エンジンの世界遺産である。それは大排気量のV8 OHVでなくてはならないと思っている。フェラーリは必ずしも12気筒である必要はないが(私見です)、アメリカンV8はOHVであってほしい。大排気量V8 OHVなんて、他にどこにも残っていないじゃないか。 よってコルベットは、話題のZ06ではなく、スタンダードモデルでいい。いや、スタンダードモデルでなければならない。Z06はDOHCだからっ! 実際、コルベットのスタンダードモデルに乗り、6.2リッターV8 OHVの咆哮を聴けば、「本物はこっちだ!」と叫びたくなる。コルベットにとって絶対性能などどうでもいい。このフィーリングがすべてだ。 本音では、コルベットはFRのままでいて欲しかったとも思っているが、FRのトラクション能力では、アクセルを床まで踏みつけるのが難しい。その点、ミドシップ化されたこの7代目は、心置きなくV8パワーを解き放ち、『蘇える金狼』の如く「ハッハハハハハ!」と高笑いすることもたやすいのであった……。 ◆ジャガーIペイス RダイナミックHSE「BEVデザインのお手本」 ジャガー初のピュアBEVとして登場したIペイス。すでに日本導入から5年になろうとしているが、相変わらず最大の美点は、フォルムの美しさだと断言しよう。特に斜め後ろから見た時の、気品に満ちたスポーティな造形は、新世代ジャガーを象徴している。クイッと突き出たノッチ部と、その下のシャープなテールランプ&ジャガーのエンブレムのハーモニーが、クルマ好きの美意識の秘孔を突く。 Iペイスは、BEVのあるべきフォルムのお手本を世界に提示した。SUVの床下にバッテリーを積めばいいというものではない、BEVはBEVなりの美しさを追求すべきだと身をもって示したことで、世の流れはその通りになった。すばらしいじゃないか。 ドライブフィールは、以前と変わらずパワフルで上品だが、登場から5年の歳月が流れたため、航続距離に物足りなさを感じるようになった。そのあたりに関しては、来年以降登場するはずのジャガー第2世代BEVに期待しよう。性能はもちろんのこと、デザインもとてもゴージャスなものになるらしい。 ◆マクラーレン・アルトゥーラ「さすがマクラーレン!」 マクラーレンは、フェラーリの対極に位置するスーパースポーツだ。すべてが理詰めで、官能性などという雑味の入る余地のないクルマだと考えていた。 しかしアルトゥーラは違う。いや相変わらず徹底的に論理的ではあるが、3リッター120度V6ターボ+PHEVという構成は、ライバルであるフェラーリ296GTBと同じ。故かどうかはわからないが、低速域でのトルク感や、完全バランスの120度V6のフィーリングに、適度な官能性を感じるのである。 サウンドの抜けも、V8モデルより明らかに向上している。「音さえよければすべて善し」というサウンド信者である私としても、「マクラーレンも世俗のニーズがわかってきたのか」と、ニヤリとせずにはいられない。いや、マクラーレンのカスタマーは、カサカサに乾いた論理性に惚れているのかもしれないが、その点に配慮して(?)、官能性はあくまで適度なレベルにとどめられている。最高出力(680馬力)をライバルより抑えながら、0-100km/h加速はほぼ同等というところも、さすがマクラーレンと唸るしかない。 ◆メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス「安全なる天上界」 メルセデスは開発の主軸をEVに移した。フラッグシップはもうSではなくEQSだ。Sは脇役なのだ……。そんな思いは、このクルマに乗ってフッ飛んだ。巨大なセダンボディの内部は、ウルトラゴージャスな竜宮城である。真っ赤なレザーがダイレクトに酒池肉林を連想させる。このダッシュボードの素材は一体ナニ?想像もつかないがとても高そうだ。 助手席には、タイトミニのウルトラいい女が足を組んでいる(妄想です)。彼女が顎をツンと上げた。全速前進の合図である。アクセルを床まで踏み抜く。最高出力802PS、最大トルク1430Nmが大地を蹴る(1430Nmは、モーターをブースト的に使うと10秒間だけ発生する)。巨体がワープのごとく加速するが、車内は平穏そのものだ。世界にどんな悲劇があろうとも、ここは安全なる天上界なのである。 いい女がつぶやく。「前のクルマ、全部抜いてちょうだい」と。了解。全部抜いたるで~!え、EVモードで33キロ走れるって?あ、そーなのね。それはそれで便利かもしれない! ◆ボルボXC40リチャージ・アルティメット・シングル・モーター「徹頭徹尾さわやかさん」 本誌読者の皆様にとっては、EVだからといって「わぁすごい」という時期は終わっていると推察する。ひょっとすると、スーパーEVの狂気の加速にも、「もう飽きちゃったよ」という方も少なくないだろう。いまクルマ好きに刺さるEVは、適度にコンパクトで、電費がよくて、航続距離に余裕のある、「中ぐらいなりおらが春」なモデルではないだろうか。 ボルボXC40リチャージは、とても中ぐらいで心地いいEVだ。運転していても特筆するようなことはなにも起きず、ただただ平和に風景が後方に流れていく。加速はEVとして実に中ぐらいだし、デザインもインテリアもサワヤカで嫌味ゼロ。エアコンには空気清浄機が付属していて空気もサワヤカだ。 2023年のマイナーチェンジで、FWDからRWDへ大転換を図り、モーターを自社製に変更したのは、電費の改善が目的だ。バッテリー容量を若干増やした結果、カタログ上の航続距離は502kmから590kmに増えている。徹頭徹尾さわやかさんなEVでありながら、本物の進歩を実現しているのである。 文=清水 草一 (ENGINE2024年4月号)
ENGINE編集部