新しい挑戦にワクワクが止まらない! 姉妹でタッグを組んで理想のワンピースづくりに突き進む
3人の子どもを育てている妹と共に、新しくママ向けファッションブランドを立ち上げるべく奮闘中の漫画家兼ファッションデザイナー、小柳かおりさん。連載第2回となる今回は、現役ママである妹のアイデアから生まれたデザイン画が、いよいよワンピースとして形になっていく様子をお届けする。 【もっと写真を見る】
ファッションデザイナーとして自身のブランド「Antique Carrie(アンティークキャリー)」を手がけている漫画家の小柳かおりさん。40歳の時にファッションデザイナーを目指し、服飾専門学校への入学、そしてブランドを立ち上げる様子を描いた漫画「アラフォー漫画家がファッションデザイナーを目指す話」も好評だ。そんな小柳さんと妹のちはるさんが現在、取り組んでいるのが子育てママに向けたブランドの立ち上げだ。11月のブランドデビューに向けて日々邁進する2人の様子を追いかける連載の第2回では、いよいよ本格的になってきたワンピース制作の模様をお届けする。 頑張っていること=子育てと言ってはいけない? 現役ママの心に生まれた葛藤 現在もファストフード店でのアルバイトを続けながら、新ブランドのアイデア出しからデザイン画、SNS発信など、新しいことにチャレンジをしている妹のちはるさん。今回のチャレンジについて家族に伝えた際、最初は驚いていたが、今はみんなで応援してくれているという。 「妹の娘である小学校4年生の双子の姉妹が、モデルのような出立ちで自撮りしたりと、ちょうど洋服に興味が出てきているお年ごろで。洋服作りに対する憧れもあるようで、興味津々な様子だそうです。妹は現在、九州で暮らしていますが、トワル(仮縫い)やサンプルチェック、生地選びに加え展示会の打ち合わせなど、対面の場で進めたほうがいい時は、都度東京へ出てきてもらっています。月に一度ほどですが、『こんなに家を空けていいのかな。旦那さんに迷惑をかけてしまうかも』と私自身、気が引ける場面も。でも、仕事を調整して子どもたちの面倒を見てくれるなど、妹の自己実現に対して理解を持って協力してくれているようです」 東京と九州で離れて暮らす2人は毎日、LINEなどを通じて作業進捗や、今後の計画を確認し合いながら進めている。そして、ちはるさんの大切な仕事の一つであるSNS発信については少し、思うところがあるようで。 「私は以前から毎日のように発信活動を行っているのですが、妹は今回の活動開始時に初めてXやInstagramのアカウントを立ち上げたため、SNSに不慣れな点が気になってしまい。『ちょっと最近、発信が少ないんじゃないの?』など、私からアドバイスしています。水面下ではショップバッグ製作や初めてのアクセサリー製作など、いろいろと新しいことにチャレンジしてもらっていますが、なかなか発信につながっておらず、フォロワーさんに知っていただけていないのが残念です。『実は洋服を作るだけではなく、こんなことまでやってますよ』と、より活動を〝見える化〟して、応援してもらえるきっかけにしていけたらと思います」 信頼のおけるパタンナーの手により、2人のワンピースがさらに理想へと近づく ここで洋服づくりの流れについて簡単に説明しておこう。デザイナーがデザイン画を描き、パタンナーがデザイン画から洋服に立体化して型紙に落とし込み、型紙を使って縫製に入る。ざっくりとではあるが、一点もののオーダーメイドも量産品も、一般的にはこの工程でつくられていく。さらに細かい工程については小柳さんの漫画「アラフォー漫画家がファッションデザイナーを目指す話」が詳しいので、ぜひチェックしてもらいたい。アパレル業界において企業形態はさまざまあり、大きな企業になるほど分業が進んでいる一方で、一人でデザインから製図、縫製までを行う場合もある。 「私が目指しているのは後者であり、自身で持続可能なモノづくりを実現できたらと考え、全工程に対応可能なスキルを学習してきました。ですが、服飾学校で学ぶパタンナースキルは最低限のもので、そこから、よりシルエットがきれいに見える線の引き方、サイズ感などは、実務の中で身に付ける必要があります。今回の新ブランドについては、デザイン画から立体化するパターン制作を一番大切な工程と位置付けており、品質を第一に考えた際に自分でやるよりも、経験豊富な信頼のおけるパタンナーさんに依頼したいと思ったんです」 そこで、小柳さんは「Antique Carrie」の立ち上げ時にも依頼した株式会社コロンにパターン制作をお願いすることに。同社に対して小柳さんは「小さなブランドにも親身に相談に乗ってくれ、寄り添ってくれる」と絶対の信頼を寄せているそう。その期待を裏切ることなく、百戦錬磨のパタンナーからもさまざまな提案があり、デザインから立体にしていく段階で当初よりブラッシュアップされていった。 「今回はサイズ展開を行わないことにしましたが、人の体型は千差万別。フリーサイズとして規定する時に、より多くの方にフィットする寸法、シルエットや仕様にしたいと考えました。一般的に人の体型は年齢を重ねるうちに変化していきます。今回はアラサー、アラフォー世代が着ることを想定して、ウエスト周りにゴムを入れてゆとりを持たせて体型変化に対応させたり、腕を動かしやすいようにバスト周りを大きめに取ったりと工夫。ウエスト位置も〝細見え〟するよう少しハイウエストになっています。ネックレスワンピースの方はカジュアルになりすぎないよう、フロントにはゴムを使わず上品さを残しました。それから家事をすることも想定して腕まくりしやすいように袖口はソフトなゴム仕様にしました」 ネックレスワンピースは、ラウンドネックからVネックにした以外にも、スカートのタック分量を変更した。 「すっきりしたフレアスカートなのですが、実際に着てみたら私にはお尻周りがきつかったため、タックを多めにしてゆとりを持たせました。私の体型は分類すると標準体型(Mサイズ)なのですが、やや中年太り、下半身が太めの洋梨体型・骨格ウェーブ型なのです。もともとのスタートが『着る物に困った漫画家が服を作る』だったため、まずは自分がきれいに着れる服を目指しました。自分が着られることで、洋梨体型・骨格ウェーブ型のお客様に安心して着てもらえることを担保するみたいな発想で。だから私が手がけるブランドには、わりとフィットアンドフレアのワンピースが多いんです。ちなみに妹はストレート型なので、今後のデザイン展開も変わってくるかもしれません」 子育てママ、そしてアラサー・アラフォー世代の願いをかなえるワンピースに! 2021年に小柳さんが「クラシカルテイストの洋服を着ることで、日常にときめきを運び込む(carry)」という思いを込めてデビューさせたブランド「Antique Carrie」。アイデアの出し方やコンセプトの異なる新ブランドは届けたい先も違ってくるため、「Antique Carrie」とはブランドを分けることとした。 「『Carrie‘s Mom (キャリーズママ)』というブランド名はデザイン制作時から考えていて、当初は『子育てママのための』という思いを込めて名づけました。その想いは今も変わっていませんが、いざ服を作ってみると、とても機能的なものとなってきて。『これは着心地のいい服を求める人に広く届けたい!』と、ターゲットが当初から広がってきました。ですので、今は『3人の子育てをするママが考えた』という意味の方がしっくりくるかもしれません。ママになるとファッションに制約も出てくると聞きます。どうしてもカジュアルになりがち、体型に合うかわいい服が見つからない、ワンピースが着たいけど着られないと。そんな悩みを吸い上げて、大きなポケットを付けたほか、動きやすさにもこだわった服作りをしています。『かわいいだけじゃなく機能的』なので、『自分らしくおしゃれを楽しみたい、ママの願いをかなえる服』としてお手に取っていただけたらうれしいです。また、子育てママやその同世代向けのブランドとして、今後は子ども服のリンクコーデなども展開したいなと考えています」 妹、パタンナーから受けた最後のバトン! 自分に妥協を許さずサンプルを制作 「Antique Carrie」始動当初、縫製スキルが不足していると感じていた小柳さんは、縫製の工程は工場の力を借りることに。しかし、量産方式にすることで、需給予測やコスト管理が大変だと気づき、ある時から「自分で縫えたらいいな」と思うようになったという。 「自分で縫製をすることで必要量を用意したり、細かい仕様にこだわれたり、お客様の要望に応えた柔軟なサイズ調整が可能になります。そう思い立ってから数年間、縫製の勉強を行い、現在に至ります。既に『Antique Carrie』の方で自身の縫製品を販売したり、個別相談のオーダーメイド対応を行なっていたりと経験はあったので、『Carrie‘s Mom』の縫製は自分で行うことにしました」 縫製スキルを身に付けたといえど、まだ日々進化中でもある小柳さん。縫えるアイテム、まだ縫ったことがないアイテムがある中で、今回のワンピースはそれほど難易度が高すぎるというものではなかった。しかし、品質を意識した際に「よりきれいに見えるにはどうしたらよいか」という点で試行錯誤したそう。 「ネックレスワンピースは、Vネックのラインや、ネックレス紐を縫い付ける位置と角度、紐の幅で苦労しました。当初はワンピース生地と同じ生地を布ループ(細く縫って表裏を返したもの)にしようと思っていましたが、細すぎて表裏をひっくり返せずに断念。代わりになる素材を探すことになり、リボン、レース、ゴム紐などで試作。結果、ニット生地にたどり着きました」 「巾着ワンピースは、巾着部分を絞る紐の取り付け方、スカートのギャザーの寄せ方に苦労しました。大きなポケットが付いているため、スカートとポケットを一緒に縫ってしまうと ギャザーが寄せられず汚く見えてしまいます。一度目のサンプルではそこを失敗して、改良案を考えました」 縫い直しや多岐にわたる微調整などを繰り返し、なんとかサンプルが完成。巾着ワンピースの出来には2人とも満足だったが、ネックレスワンピースには物足りなさを感じた。 「無地一色でなんだかつまらないネックレスだけでは弱く、せっかく作るのだからありがちなデザインから脱却したいと。そう思って姉妹2人でアイデアを出し合っては行き詰まってを繰り返していたところ、たまたまそこに居合わせた妹の長男から思いがけないひと言が(笑)。なに気なく言ってくれたと思うのですが、リボンならばよりかわいくなり、素材もシフォンのような柔らかなものにするといいねと、採用することにしたんです」 巾着ワンピース、ネックレスワンピース共に、姉妹の思いが詰まった一着が完成。そして、いよいよ新ブランド「Carrie‘s Mom」のデビューの時が近づいてきた。 「姉妹で作り上げてきた『Carrie‘s Mom』のお披露目の場として、『THUNAGARU』というイベント名で展示会を開催させていただきます。文字どおり洋服をとおしてお客様とつながりたい、そして妹が社会とのつながりを取り戻す場所という、2つの思いを込めました。会場では実際にお手に取っていただけるほか、試着も可能です。この半年間走り続けてきたアウトプットをご覧いただけたらと思います!」 デザイン画からつくり上げてきた2種類のワンピースのお披露目に向けてラストスパートをかける2人。ブランドロゴを印刷したショップバッグや商品タグの制作、そして展覧会の準備、そして気になる展覧会当日の様子などについては次回へと続きます! ■Carrie‘s Momデビューイベント「THUNAGARU」 日程:2024年11月2日(土曜)14:00~18:00、 3日(日曜)・4日(祝日) 10:00~17:00 場所:東京都渋谷区猿楽町25-3(代官山駅入口交差点近く) 文● 杉山幸恵