<インド>望まれない女の子 ── 高橋邦典フォト・ジャーナル
「学校の中でこんな名前だったのは私ひとりだけ。いつもからかわれていた。だけど、新しい名前になってすべてが変わるといいな」 8歳のナクサが言った。「ナクサ」は、地元のマラティ語で「unwanted(望まれていない)」という意味。インド西南部、マハラシュトラ州の小さな町サタラでこの日、ナクサのように不名誉な名前を持つ200人以上の女の子たちが、家族とともに、役場での「改名式」に参加した。 なぜ彼女たちにこんな名前がつけられてしまったのか? インド、特にサタラのような保守的な田舎部では、いまだに男子を好む傾向が強い。女子は家を継げないし、結婚の際にも高額な持参金を持たせなくてはならないので家庭の足かせになるからだ。女子が続けて生まれると、その子をナクサと名付けることによって、次の子が男になる、と多くの人々に信じられているのが理由らしい。 この日ナクサは、「プラニラ」として生まれ変わった。ちなみにこの日、もっとも多かった改名後の名は「プリヤンカ」。インド映画界の大人気女優プリヤンカ・チョプラにちなんでのものだ。現代の女の子たちの理想像、といったところか。 (2011年10月) ---------------- 高橋邦典 フォトジャーナリスト 宮城県仙台市生まれ。1990年に渡米。米新聞社でフォトグラファーとして勤務後、2009年よりフリーランスとしてインドに拠点を移す。アフガニスタン、イラク、リベリア、リビアなどの紛争地を取材。著書に「ぼくの見た戦争_2003年イラク」、「『あの日』のこと」(いずれもポプラ社)、「フレームズ・オブ・ライフ」(長崎出版)などがある。ワールド・プレス・フォト、POYiをはじめとして、受賞多数。 Copyright (C) Kuni Takahashi. All Rights Reserved.