吉沢悠「ハリーの成長している姿を見せたい」舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」への想い:インタビュー
俳優の吉沢悠が、TBS赤坂ACTシアターで上演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』 に出演。ハリー・ポッターを演じる。キャストが変わり上演3年目を迎えた本作は、小説『ハリー・ポッター』シリーズの作者であるJ.K.ローリングが、ジョン・ティファニー、ジャック・ソーンと共に舞台のために書き下ろした「ハリー・ポッター」シリーズ8作目の物語。舞台化の話を断り続けてきたJ.K.ローリングだが、「家族、愛、喪失をテーマに、ハリー・ポッターの19年後の新たなストーリーを舞台化する」というプロデューサーの提案に初めて共感し、プロジェクトがスタート。新たな『ハリー・ポッター』シリーズとして、多くの人々を感動させている。インタビューではハリー・ポッターを演じる吉沢悠に、本作に臨む姿勢から、演じるにあたって再認識したことについて、話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】 ■ハリー・ポッターの魔法界も変わっている ――オーディションを経てハリーを演じることになったとお聞きしました。どのような思いで参加されたのでしょうか。 オーディションのお話をいただいて、ぜひ受けてみたいと思いました。とても長い間公演を行うことになりますが、ハリーと向き合うこと、ロングランの公演と向き合うことも含めて挑戦したいと思いました。 ――改めて作品を見直されましたか。 はい。映画『ハリー・ポッター』シリーズはもちろん、映画『ファンタスティック・ビースト』シリーズも観ました。また、原作の「賢者の石」を読みましたし、今年の2月に、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が一番最初にスタートしたイギリスに行って観劇しました。その中で感じたのは原作、映画、舞台、それぞれに良さがあるなと思いました。 J.K.ローリングさんが描いたハリーは、無垢で可愛らしい、いたずら好きの男の子というイメージですが、僕が映画で観ていたハリーのイメージとは少し違ったんです。そして、舞台はそこから19年後ということで、ハリーが大人になって、皆さんの持つハリーのイメージが出てくるんじゃないかなと思いました。 ――吉沢さんがハリーを演じるにあたり、こだわっているところは? 19年経っているので、結婚して子どもがいて、ハーマイオニーやロンも大人になって家族になっている。時間が経っているから当たり前なんですけど、その世界にびっくりしました。そこは映像や小説では描かれていないので、19年後の世界を初めて観る方たちにとって、ハリーはどう成長していったのか、ちゃんとこんなふうに成長しているんだよ、という姿をしっかり見せなければと思っています。 その中の人間模様として、ハリーはヒーロー的なイメージもあると思います。魔法世界や普通の人々が暮らしている世界でも親子関係で悩むといった感情をハリーも感じていて、そこが世界共通で面白いと言われている理由の一つだと思います。演出家は同じ方なので、捉え方は同じなのですが、今回、ダブル、トリプルキャストでやっていく中で、人が変わると人間関係も若干変わってくるので、新たな人間関係が生まれているからこそ、ハリー・ポッターの魔法界も変わっているんだ、というのを届けたいです。 ――ハリーの息子のアルバスに向かって怒鳴っているシーンもあり、印象的でした。 なんでわかってくれないんだ、という思いがハリーは強いんです。これは脚本などで書かれている設定からも紐解けるのですが、ハリーが1歳の頃にヴォルデモート卿に両親を殺されてしまっているので、ハリーは親に育てられた記憶、経験がないんです。映画では鏡に写った両親に思いを寄せるシーンがあるのですが、あれはハリーがイメージしたものなので、本当に両親がかけてくれた言葉でないんです。アルバスが何も問題を起こさない子どもだったらコミュニケーションは上手に取れると思いますが、やっぱり人同士のことなので、通じないところも出てきます。そこでどうしていいかわからないといったハリーの姿が描かれています。 ――ハリーは特殊な育ち方をされていますから。 再認識したのですが、ハリー・ポッターは闇の存在であるヴォルデモート卿を倒したことによって、魔法界ではずっとヒーローとして扱われていて、ハリー・ポッターという仮面をつけていないといけない時もあると思います。そんなヒーローのハリーが家庭環境でもめているというのは、とても興味深いところです。でも、ヴォルデモート卿に弱さを見せてしまうと、毎回そこにつけ込まれてきたので、弱さを見せてはいけないというハリーがいます。息子に対しての表現方法がわからないから、どうしていいかわからず爆発してしまうというのが、今回の舞台の中にあるので、それが怒っているように見えているのではと思います。 ――シンプルに怒っているというわけではなく、葛藤があるなかでの描写なんですね。 演出の中でイギリス的な表現を忘れないでほしいと言われていて、この子のことを愛しているのならば、ハグしてあげればいいだけなのに、「なぜわからないんだ」と逆の方にいってしまう。イギリスにはそういった思っていることと逆のことをしてしまう気質があるみたいなんです。それは一部、日本でも近いところがあるのではないかと思います。表面的には怒っているように見えますが、根底にはもっとわかってほしいという思いがあるので、ちょっと違った意味で捉えてほしい、とアドバイスをいただいていました。 ――アルバス役の渡邉蒼さん、佐藤知恩さん(Wキャスト)など若いキャストもいらっしゃいますが、吉沢さんからはどのように映っていますか。 僕とはひとまわり以上年齢が離れていますが、年齢の違いなどは感じていないです。僕は一人の役者として見ています。本作はハリーたちの息子の冒険も主軸になっていて、アルバスとドラコ・マルフォイの息子のスコーピウスは、すごく大変だと思いますが、若さがあるからこそどんどん役者として変わっていくスピードが早い。吸収してかみ砕いてそれを出す瞬発力もあって、その姿を見ているのもすごく面白いです。父親役としてこんなにも長い期間一緒に演じ、父親を味わせてくれるという経験はなかなかないです。 ――良い関係なんですね。 はい。この前、人生で初めて父の日を祝ってもらったんです。蒼くんがチョコレートをくれました。父の日にこういう気持ちを味わせてもらえたというのは、一生のうちにあるかわからないので、とても嬉しかったです。オフの時間にも父と子でいられたりするので、すごく面白い関係だなと思います。 ■継続キャストから教わった違ったものが生まれている実感 ――さて、エリックさんという新しい演出が入られたことで、これまでの公演とはまた見せ方が変わってくると思いますが、どんな変化がありますか。 1年目、2年目を観られている方は、物語がどのように進んでいくのかわかっていると思います。3年目でキャストが変わって初めて観に来てくださる方もいると思います。エリックさんが演出することによって、変化があるとしたら、なぜそういう風に動いたのか理由を考えてほしいと仰っていました。たとえば何かを見るという行為ひとつとっても、台本に書かれているからとか、見なきゃいけないから見るというのはやめてほしいと。 人が動くのには理由があるから、それをそれぞれのキャラで埋めてほしいとのことでした。また、自由に動いていいシーンでは、自分で感じたままに動いていいとのことでした。照明さんはトニー賞を獲られている方なので、立ち位置とかもすごく厳しいのですが、キャストそれぞれの解釈で埋めてほしいというところで、このキャラはなぜこういう風に話したのか、なぜこう動いたのか、舞台上にいないとき彼らは何をしているのか、などたくさんお話しました。 ――演技の解像度が変わりそうですね。 エリックさんはなぜそういったことを話したのか、理由があるんです。エリックさんは日本で演出したあとに、今度は他の国に行ってしまう。そうなると自分はいない。でも、今している話というのは、ロングランをしていく上で絶対に必要になるからと言うんです。この先、何か迷うことがあったとしても、いま話していたことを思い出してもらえれば、しっかり戻ってこられる。演技の核となる部分を絶対に忘れないでほしいと指導してくださいました。 ――未来を見据えた演出だったんですね。 そうです。2年目の継続キャストの方たちが稽古場に来られたことがあって、エリックさんの話を聞いていたのですが、「そんな解釈があるんですか」と驚いていたんです。これまで何百公演もやってきた方たちが新鮮だということは、また違ったものが生まれているということを、継続キャストの方々から教わりました。 ――新たなキャストも加わった3年目の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』 の見どころは? 3年目の今回の舞台は芝居自体は同じでも、役者から発する何かが変わる可能性があって、これまでを観てきた方々はそういう楽しみ方ができると思います。初めて舞台のハリー・ポッターを観られる方は、映画シリーズで魔法と言うものがどういう感じかわかっていると思いますが、目の前でその魔法を観るという経験ができると思います。それは劇場に来ないとわからないことだと思います。僕もある程度予想はしていたのですが、実際体感してみると、どうなってるの? の連続でそこは大きな見どころの一つで、ぜひ体験していただきたいです。 ――最後に、もし吉沢さんが魔法を使えるとしたら、どんな魔法を使ってみたいですか。 ハリー・ポッターの世界にこんな魔法があるかどうかはわからないのですが、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』は、脳も筋肉もすごく使う舞台なので、体調も準備万端の状態で臨みたいというところで、体の疲れを癒してくれる魔法を使いたいです。いろんなものが蓄積した状態でやっているのですが、それはハリーが背負っている重みとして受け入れていまやっていますが、もう少し楽になれたらいいなというところもあり、“滋養強壮の魔法”が使えたらなと思います(笑)。 (おわり)